2018年もさまざまな経済事件が噴出した。世界的な規模では、やはり米中貿易戦争だろう。米国の貿易赤字は、中国や日本などの「不公正な」輸出力のせいだ、というのが歴代の米国政権のロジックで、今回の米中貿易戦争もその一環かと思われた。だが、最近ではファーウェイの副会長の逮捕をとっても、単なる貿易戦争ではなく、両国の安全保障あるいは国家の覇権そのものにかかわる政治的な問題であることが明らかになっている。そのため米中貿易戦争の行方は、両国家の経済冷戦の様相を帯びていて、今後の推移を簡単に占うことは難しい。

また国内では、入管法改正による外国人労働者の拡充、そして消費税増税などが熱く議論されている。どちらも日本という国家の枠組みを考える上で重要な問題だ。私は外国人技能実習生の現在の処遇を改善するのは急務だと思っている。だが他方で単なる「安価な労働」としての外国人労働者の拡充には、それは日本・外国双方の労働者にとって経済的な待遇が劣化するために反対である。また消費増税には、長期停滞を脱出して息をついている日本経済を、また嵐の中に叩き込む恐れが高いものだと考えている。拙著『増税亡者を名指しで糺す!』(悟空出版)は、この消費増税問題について率直な反対意見を述べたものである。

ところで2018年になってより鮮明になったのは、経済政策の対立するふたつの見解が、単に専門家や政策当事者だけではなく、各国の市民たちに実感として知られてきたことだ。それは緊縮政策と刺激政策との対立である。最近では、フランスで黄色いベルトの人たちが燃料税に対して抗議の声をあげたことが印象として残る。この黄色いベルトの抗議行動は、パリなどでの暴動を伝える報道をよく目にした。

暴動を起こすことで、政治の在り方や政策が変更されてしまえば、それは経済学者のオリビエ・ブランシャール(元IMFチーフエコノミスト)が正しく指摘したように、代表民主制の危機以外の何物でもない。だが、黄色いベルトの多数は穏健派であり、その燃料税引き上げ反対の声を支持する世論は大きな勢力だった。

そのためフランス政府は燃料税引き上げの延期を決めた。暴動によってこのフランス政府の決定がなされたわけではないことが重要な点だ。緊縮政策(増税や緊縮財政政策)への明瞭なノーが、フランス国民の意思として明らかにされ、それをマクロン政権が無視できなかったことを端的に示している。

この緊縮政策と刺激政策(不況を積極的な財政・金融政策で脱出する政策)の対立軸は、今後さらに鮮明になるだろう。

「ポピュリズム」という言葉は、大衆迎合的でまた否定的なニュアンスで使われることが多い。しかしポピュリズムと名指しされる政治的活動や意見の中に、真理が潜んでいることを見逃してはいけない。例えばフランスでもイタリアなどでもポピュリズム政党といわれる党派は、外国人労働者の拡充に反対である。もちろんこの反対が単に排他的なレイシズムにつながるのであれば非難すべきことだ。

だが、他方で財界などが「安価な労働」として外国人労働者を増やすことは、これは国内にいる人たちの生活水準を低下させ、また外国人労働者自体の生活も劣化させるだろう。この財界の「安価な労働」という人を人としてみない労働者の利用は、日本でも非正規雇用の拡大や今回の外国人労働者の拡充でも明らかである。

要するに「安価な労働」とは、人の生命や生活を踏みにじることで、人間の労働を緊縮的に運用することに他ならない。このような人間の生き方を緊縮するかのような政策に反対するのであれば、それはレイシズムとはもちろん異なる。反緊縮の声そのものだ。

ポピュリズム的な政策や主張の中には、そのような反緊縮的な意見や思いが含まれている場合が多い。このメッセージを拾いあげて、それを具体的な政策に活用すること。緊縮主義に対抗する政治的な活動が、今後日本でもより一層強く望まれるだろう。