人間は健康でありたいと願うことが当たり前であるし、そのための手段をいつも探している。一方、世の中には健康に関わる情報が氾濫しており、その情報を個人で精査することが容易ではないのも事実だ。健康食品、機能性食品、サプリメント、家庭用の健康・運動器具、それに食事法・運動法に関わる様々な書籍など、多くのヘルスケアに関わる商品が市場に出回り、ものによっては一過性の流行で消滅していく。

『フィットネス』も健康関連商品の一つ。フィットネスジムのサービスは様々な運動の方法(ダンス、水泳、ウェイトトレーニングなど)を提案し、実際に運動する場を提供し、フィットネスブームといわれる状況が作られてきた。しかしここ数年日本のフィットネス普及率は3.3%程度と横ばいというのが実情だという。そこに新しい布石を投じようとしている企業がある。フィットネス施設に医科学研究所を併設し、最先端のフィットネスのプログラムを提供する『ORKA GYM』を中目黒で運営する『DL CHASE jAPAN』代表、神谷卓宏が、その説明会でこれからのフィットネスについて語った。


「痩せるためのジム」ではなく「健康のためのジム」へ

日本のフィットネス普及率は3.3%程度であり、例えばアメリカの18~19%、韓国の8%などと比較して低い状況であるという。また、フィットネス人口は増加することはなくここ数年は平行線のまま。既存のジムでは、退会者数を見込んだうえで新規入会者数の目標を設定し経営を回しているのが実情らしい。そしてその理由は、ジムというサービスが痩せることを目的として利用されていることであるという。痩せるという目標を達成すると退会してしまうというケースが多いというのだ。

神谷氏は、フィットネスの既存概念である「ジムで痩せる」を、「ジムで健康になる」という真概念に置き換えることによって、問題解決を図ろうとしている。それはどういった方法なのか。

医療設備とデータで健康を可視化するということ

「可視化」は、ここ数年様々な分野でのキーワードともなっているが、それは健康についても同様であるようだ。ジムというサービスが、健康を手に入れて維持するという目的のためのサービスであるのならば、ジムの利用者には何が健康であり、その利用者の現在の健康状態がどうなのかを伝えたうえで、適した運動のプログラムを組むことが必要となる。

神谷氏は健康とはなんであるかの定義を投げかける。「一般的に医師が言う『健康』は、健康診断、人間ドック、抗体検査の結果によるものだ。しかし、健康がもたらす効果は『生理機能の維持』、『老化の抑制(見た目など)』、『健康寿命の増進』です。」という。ORKA GYMではこの健康がもたらす効果を可視化する。確かに、健康診断などで誰もが経験したことのある医師による健康の判定は、検査結果の数値が正常な範囲にあるかどうか、「異常なのか・異常ではないのか」というものだ。ORKA GYMの『健康の可視化』とは、「どれだけ健康であるのかを数値で知る」という、そこから一歩踏み込んだものであると理解できる。

ORKA GYMで可視化される5つの健康指標

健康の状態を知るための指標は次の5つだという。

  1. 筋断面積(筋肉量と筋肉の質)
  2. 血管径/血管壁の厚さ
  3. PWV(血管年齢)
  4. 血流速度/赤血球連鎖/血液凝固(血液のサラサラ度)
  5. SpO2(酸素濃度)

ORKA GYMではこれらの数値を、超音波測定器や、血液を採取した測定*、酸素濃度計などで計測する。1カ月に1回以上の測定を継続していくそうだ。また、計測結果によって運動のプログラムがパーソナライズされる。ORKA GYMには現役アスリートから80歳の一般男性までが通うというが、それぞれに適した運動プログラムが、目に見える数値を基に作られる。(*採血・測定は任意)

継続して健康の状況を知るための数値を計測して可視化し、日々の健康維持・増進のためのプログラムをパーソナライズして提供していくことによって、ジムが痩せるための施設でなく、健康を実現するための施設であるという認識を広めることが、フィットネス人口が増加する結果となるのだという。

さらに、ジムのフロアには黒光りするカプセルホテルのようなコンテナの機器『MHBOチャンバー』が設置されている。中は人が一人横になれるスペースで、交感神経優位から副交感神経優位になる「高気圧・高酸素」の環境を作るのだという。神谷氏は現在も京都大学においてこのような機器を使った「軽度高気圧酸素暴露」の研究を続けていている。研究機関で利用される機器を設置しているジムは他にはないそうだ。医学研究所を併設しているからこそ可能だという。

このチャンバーの中の酸素濃度は外部の約2倍になり、そこに1時間横になる。そうすると血液の中に酸素が溶け込み、毛細血管まで届けることができる。アンチエイジングに効果があるとも言われており、ダイエット、不妊症、歯周病の治療のための研究にも利用され、今後スポーツ界でももっと利用されていくことになると神谷氏は考えている。

フィットネス人口を10%以上にするという目標

DL CHASE jAPANの事業は、ORKA GYMの運営、医科学研究に加えて、トレーナー及び講師派遣、スポーツ・健康に関する講演だ。日本再興戦略2016によると、スポーツ庁は2025年までにスポーツ施設を2.1兆円から6兆円にするとしている。その流れの中、神谷氏は彼の事業を通してフィットネス人口を10%以上にしていきたいと語る。その一環として、ORKA GYMも現在の400人の会員数を3倍にしていくという。また、ORKA GYMの手法をフランチャイズ経営しいていくことは考えておらず、むしろ情報発信の場としてプロのトレーナーも訪れる場所として運営していくそうだ。

医療設備とデータで「健康を可視化」し、パーソナライズされたプログラムを提供し、最先端のフィットネスの在り方を実現している神谷氏。今後の事業展開が注目される。

◆プロフィール

株式会社DL CHASE jAPAN 代表取締役 神谷 卓宏

1990年、群馬県桐生市生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科卒業後、京都大学石原研究室共同研究者として学術誌に論文を投稿するなど筋生理学研究に従事。2014年、株式会社DL CHASE jAPANを設立。2018年8月、「最先端科学を民間施設で」をテーマに日本初の医科学研究所併設トレーニングジム「ORKA GYM」を設立。現在は井岡一翔やリーチマイケルらが所属するHALEO TOP TEAM のトレーニング科学部門と契約するほか、京都大学をはじめ大学チームと筋の形態変化の研究などを行っている。

ORKA GYM(http://orkagym.jp/