物価高や人材不足が続くなか、企業の福利厚生として「食事補助」の存在感が高まっている。

2026年4月、企業が従業員に支給する食事補助の所得税非課税限度額が、月額3,500円から7,500円へ引き上げられた。1984年以来、実に42年ぶりの改正だ。そして制度改正から約半年となる9月10日、食事補助の価値向上と認知拡大を目的とする一般社団法人「食事補助推進協会(Meal Benefit Association of Japan=MBAJ)」が発足した。設立したのは、食事補助サービスを手掛けるエデンレッドジャパン、Gigi、ネオマルスの3社だ。

協会が掲げるのは、食事補助を単なる福利厚生の一メニューではなく、企業が人に投資するための「あたりまえの仕組み」に変えていくこと。人的資本経営への関心が高まり、福利厚生が経営戦略の一つとして捉えられるなか、食事補助についても普及と適正な運用の両面から市場を育てていく考えだ。

では、42年ぶりの制度改正によって、企業の食事補助は実際にどのように変化しているのだろうか。その一端を示すのが、MBAJの設立企業の一社であるエデンレッドジャパンの利用データだ。同社は、飲食店やコンビニなどを社員食堂のように利用できる食事補助サービス「チケットレストラン」を展開している。

○制度改正直後、新規契約は前年同月比約1.7倍に

エデンレッドジャパンが「チケットレストラン」の契約動向を分析したところ、非課税限度額が拡大された2026年4月の新規契約数は、前年同月比約1.7倍となった。

さらに、新規契約企業の82%が従業員100名以下の中小企業。31%、約3社に1社が非課税限度額の満額となる月額7,500円を選択している。

ここで注目したいのは、食事補助が「社員食堂を持つ大企業の福利厚生」という従来のイメージから広がりつつある点だ。新規契約企業の8割以上を中小企業が占めたという同社のデータからは、少なくとも同サービスにおいて、制度改正後に中小企業で導入が進んだ様子がうかがえる。

○制度改正から3カ月、既存ユーザー企業の32.6%が食事補助額を増額

新規導入だけではない。

エデンレッドジャパンがその後、同サービスの決済データを分析すると、制度改正からわずか3カ月で、改正前から利用していたユーザー企業の32.6%、約3社に1社が食事補助額を増額していた。さらに、増額企業では1回あたりの平均利用金額が587円から760円へ29.5%増加。月平均利用回数も12回から19.5回へ62.5%増加した。月20営業日とすれば、ほぼ毎営業日に利用されている計算になる。

○増額企業の97.8%が「増額してよかった」

利用頻度だけでなく、従業員の評価にも違いが見られた。現在の食事補助額への満足度は、増額企業61.1%に対し未増額企業39.5%。「会社は従業員のことを考えてくれている」と感じる割合も67.2%対58.4%と、増額企業が上回った。

企業側の評価も高く、増額企業の管理者の97.8%が「増額してよかった」と回答。85.1%が投資対効果(ROI)を「非常に良い・やや良い」と評価している。

もちろん、これらの結果だけで、食事補助の増額が会社への評価を直接高めたと断定することはできない。ただ、制度を用意するだけでなく、実際の食費や生活環境に合わせて補助水準を見直していくことと、従業員の満足度や会社への評価との間に一定の関連が見られる点は興味深い。

〇普及と同時に問われる「適正な運用」

一方、食事補助の導入・利用が広がるほど重要になるのが、制度の適正な運用だ。

MBAJでは今後、「認知向上」「教育」「政策提言」を柱に、食事補助に関するガイドラインの策定や、政府・関係省庁への政策提言などを進めていく。協会発足に合わせて公開予定の「所得税非課税となる食事券サービスのガイドライン」では、導入企業や従業員、レストランや弁当店などの食事提供事業者が安心して制度を利用できる環境づくりを目指す。

〇食事補助を「人への投資」の選択肢に

42年ぶりの制度改正を機に、新規導入だけでなく、既存企業による増額や従業員の利用拡大も進み始めた。

MBAJが目指すのは、食事補助を一部の企業だけの福利厚生ではなく、企業が人に投資するための「あたりまえの仕組み」にしていくことだ。物価高や人材不足が続くなか、毎日の「食」を支える福利厚生が、単なるコストではなく、働く人の日常を支える「人への投資」として、企業の人材戦略の中でどこまで広がっていくのか注目される。

公式サイト:https://mbaj.jp/