シリア北東部に位置するラッカ、ハサカ、デリゾールの3県では戦闘が収束し、避難していた人びとの帰還が進んでいる。しかし道路や家屋には地雷、ブービートラップ(仕掛け爆弾)などが残されており、そうした爆発物による負傷者が4ヵ月半の間に倍増している。被害者の半数は子どもで、わずか1歳の幼児もいる。国境なき医師団(MSF)はシリア国内外の関係機関・団体に、デリゾール県での地雷除去作業と爆発物に対するリスク教育の拡大、および被害者のための救命医療の普及を緊急に求めている。
9歳のアリマスちゃんは帰還後に自宅の屋根で地雷を踏んで負傷した。ともに負傷した4人の姉妹のうち2人は脚の一部を切断せざるを得なかった9歳のアリマスちゃんは帰還後に自宅の屋根で地雷を踏んで負傷した。ともに負傷した4人の姉妹のうち2人は脚の一部を切断せざるを得なかった
■1人あたり3回の避難を余儀なくされたシリア最大の要避難地域
シリア北東部でMSFは2つの支援先病院で活動、そのうちの1つタル・アブヤドの病院では主にラッカ県から訪れる負傷者を受け入れている。もう1つの病院はハサカ県にあり、患者の75%近くはデリゾール県から来ている。同病院に6時間かけて来院する患者もいるが、デリゾール県からたどり着ける位置で稼動している無償の二次医療施設は、存在そのものが希少だ。
MSFは2017年11月から2018年3月中旬までの4ヵ月半の間、ハサカ県の病院で爆発物による負傷者133人を受け入れた。患者数は11月の17人から年末にかけて急増し、12月は39人、1月は41人となり、2月から3月14日の間も36人となった。爆発傷患者の75%が、アブー・ハマムを中心にハジン、ジバン、ガラニシュといったデリゾール県下の地域から来院している。
デリゾール県では2017年だけでも、戦闘を避けて少なくとも25万4000人が住まいを追われた。1人あたりの避難回数は平均3回に上り、同年のシリアにおける県別の人口移動では最大規模だ。既に帰還を果たし自宅に戻った人もいるが、多くはまだ避難生活を続けており、近い将来に帰還を始めると予想されている。しかし、故郷で待ち受ける危険への認識は低く、地雷除去の専門家は、デリゾール県下の学校、病院、農地などに多数残されている爆発物による被害を懸念している。これは他県で発生した爆発事件の傾向からも見て取れる。
■枕やおもちゃ、冷蔵庫までもが爆発する恐れ
日本から派遣され、シリアでMSFの活動責任者を務める井田覚は、「患者の話では、地雷、仕掛け爆弾やその他、即席の爆発装置が、道路わきの地面、住宅の屋根や階段などに仕掛けられているそうです。その他、ティーポットや鍋、枕、おもちゃ、エアコン、冷蔵庫といった家庭用品も、住人が避難している間に、爆弾に改造されているという情報もあります」と話す。
地雷除去が急務であると同時に、帰還する人びとが十分な情報に基づき爆発物を見分けられるよう、また、そうした装置が爆発した際に取るべき行動と応急処置を学べるリスク教育の拡大も求められる。また、救急医療体制の構築も並行して進めなければならない。
井田は、「人びとの帰還先が事実上の地雷原になっている状況では、対応の遅れは負傷者数の増加となって表れるでしょう。デリゾール県の医療体制は機能しておらず、病院にたどり着くのに何時間もかかる恐れもあります。爆発による即死を免れても、処置の遅れは致命的になりかねません。こうした爆発物は、平和条約や停戦とは関係なく何ヵ月、何年と潜伏を続ける恐れがあります。そして、命を奪わないとしても、手足を奪うことで、被害者とその家族の暮らしを破壊し、貧困から抜け出せなくしてしまうのです」と訴えている。