■イギリスに見る、緊縮政策下での外国人労働者拡大の問題

例えばイギリスは、日本と事情は大きく異なるもの、こと外国人労働者の受け入れを緊縮政策のもとでなしくずし的に拡大させてきた。その傾向は90年代からあったが、特に2005年以降は、新たにEUに加盟した東欧からの外国人労働者、移民などが激増した。当然にその人たちへの公共サービス(教育、医療、社会保障など)への追加的需要が増加した。しかしこの需要の増加に対して、イギリス政府は緊縮政策で応えた。当然に、この緊縮政策は、イギリスの低所得者層と外国人労働者や移民の人たちとの対立の激化を招いていく。単に経済的なパイの争いだけではなく、社会的な排除やヘイトなどが爆発的に拡大していく。社会の分断が深刻化をましていく。

もちろん連帯の動きも無視はできない。連帯の最たるものは、「反緊縮政策」の動きである。さらにもっと有力な運動としては、外国人労働者排斥の動きとも連動していた、EUからの離脱を問う動きだった。こちらは国民投票の結果、EUからの離脱がきまり、今日もイギリス社会の最大のテーマになっている。しかし反緊縮政策の方は採用されることなく、緊縮政策はその力を緩めることはない。

例えば、最近の報道では、2輪車を使った「スクーターギャング」と呼ばれる集団が、過激なひったくりや窃盗を繰り返し、犯罪件数が激増しているという。これを警察署や予算の削減といった緊縮政策の反映とみる意見も多い。さらに見逃せないのは、窃盗などの犯罪件数の増加と移民増加を連動してみなす勢力の存在である。この相関関係は実際のところ不明である。しかし緊縮政策の結果、既存の社会の構成メンバーと新規参入者(移民、外国人労働者)とが感情的に、犯罪の増加を契機に対立しやすいことは各国で観察される現象である。ちなみに日本でも不況になれば窃盗や盗難が増加する。だが、日本でもイギリスでも人口10万人比での殺人などの凶悪犯罪は減少トレンドにあることも指摘しておきたい。不況では要するに「お金」が犯罪の面でもキーになっているのだ。

外国人労働者増加政策は、労働市場の「構造改革」「規制緩和」である。構造改革や規制緩和は、緊縮政策の前ではうまくいかないことは、日本にいるわれわれは小泉政権の経験だけではなく、90年代前半から近時まで十分に体験してきた。私見では、人出不足には、まず日本にいまいる人たちの所得拡大や女性ややる気のある高齢者たちの雇用環境の改善で対応するべきだと思う。その上で、かりに外国人労働者への処遇を改善し、または一部拡大するにせよ、それは緊縮政策の下で行うべきではない。緊縮政策と外国人労働者の拡大は、日本社会の分断化を加速させる可能性が高い。その意味でも、財務省の緊縮政策は、われわれの社会の「改ざん」という悲惨をもたらすものである。財務省は日本の悪しき寄生虫である。

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