ドアはガラガラとあき、かなり年配の野村沙知代っぽいおばさんが立っていた。

「あら~何? ここを訪ねてきたの? 普通の人? 学生さん?」

と矢継ぎ早に聞かれた。怪しい人間ではないと伝えると、とりあえず中に入ってと言われた。

「今大事なプロジェクトが進行中なの。だから外部に情報が漏れるのはヤバイのよ」

と少し恐い顔で言われた。とりあえず半笑いでごまかす。

屋内はかなり広い。居間の隣には、修行部屋があり信仰の対象や黒板などが置かれていた。昔は信徒さんが通っていたそうだ。

しばらく経つと、家主である禿頭僧形のおじいさんが帰ってきた。おばさんが説明する。

「待たせて悪かったね。昨日までは違う場所にいたんだ。こうして会えたのは運命だね!!」

と熱く話はじめた。

「ここは道場なんだ。道という漢字の意味が分かるかね?

”米”を車に載せたら”迷い”になる。

そして”首”を載せたら”道”になる。道場に来るならば、真剣になって”首”を持ってこい!!」

わ~ちょっとこわ~い、と思いながらもうんうんと真顔で話を聞く。聞かないと殴られそうだ。

おじいさんがここへ来たのは戦後だった。太平洋戦争で軍に入隊したとたん、戦争が終わってしまって目的を失い、自殺しようと思って樹海をさまよったという。

そしてこの場所にたどり着いた。

建物の周りにある古いお墓のような碑を見ると、先程語った江戸時代に流行った富士講の碑だった。どうやら昔から富士山へ通じる道への、通過ポイントだったらしい。

おじいさんは、打ち捨てられた古いポイント地点に住み始めたわけだ。

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