おじいさんの話はかなり盛り上がっていった。
「ここは神の国が来る日を自覚する道場なのだ!! 神の国、そこには人類はいない!! 人がいない世界なのだ!! 私たちは人類を終わりにする仕事をしている。もうすぐその時が来るのだ!! 今日会えたのも運命、来る日に備えなさい!!」
と一気にまくしたてた。
なんともカルトな説教に、かなり萎縮してしまった。
しかし会話の後は途端に和んだムードになった。
「よかったらご飯食べていきなさい」
と言って、夕ご飯を出してもらった。
混ぜご飯、ジャガイモの煮物、漬け物と豊かな食事だったが、冷たかった。
電気はつけていないので、かなり暗くなってきて、おじいさんの顔もおばさんの顔もボヤッとしか見えない。なんだか悪夢の中にいるような気持ちになってきた。
そろそろ日が暮れる。
樹海の夜は本当に真っ暗だ。遊歩道とはいえ歩いていくのはかなり厳しい。
どうしようかと迷っていると「よし、下まで送ってやるよ」と言っておじいさんが立ち上がった。修行の成果でタタタタッと夜道を案内してくれるのかと思ったら、先程の四角い建物の前に行きガラガラとドアを開けた。中には立派な自動車があった。ガレージっぽい建物ではなく、ガレージだったのだ。
行きはあんなに大変だった道のりも車ではあっと言う間だった。自動車で運転するには、かなり難易度の高い道だが慣れているようでスイスイと走っていった。
山道を送ってもらってありがたかったが、樹海で孤独に暮らす宗教人が自動車でピューッと走るってどうよ? とも思った。
この10年以上、乾徳道場に行ってもお二人の姿はない。どこかで元気で暮らしてると良いのだが。