2017年、日本は世界のビットコイン・コミュニティーの中心にいた。中国では仮想通貨の取引が全面的に禁止されたが、日本には金融庁に登録された仮想通貨交換業者が16社存在し、仮想通貨に対して比較的寛容な姿勢を維持していた。

それが1年でなんと大きく変わったことだろう。

転機は2018年1月、仮想通貨交換業者コインチェックが不正アクセスを受け、約580億円分の仮想通貨が流出したときだ。規制当局はこの事件に大きな警戒感を抱き、新規事業者の登録に神経質になり、市場の成長は一時的に減速した。

だが、日本はブロックチェーンに見切りをつけたわけではない。

むしろ日本政府は、改めて仮想通貨に前向きな姿勢を示しつつある。日本経済新聞によると、金融庁はコインチェックを改正資金決済法に基づく交換事業者に登録するという。また、時事通信によると、金融庁は仮想通貨技術を使った資金調達イニシャル・コイン・オファリング(ICO)の透明性を高め、投資家保護を強化するため、関連法の改正案を準備している。

これは日本が、世界の金融業界のハブとしての地位を確立しようとしている兆しなのかもしれない。そのためにはブロックチェーンと仮想通貨を積極的に受け入れる必要がある——日本政府はそう考えたのかもしれない。

たしかに矛盾する要因は多い。日本経済は極めてリスク回避指向が強いのに、未知の金融分野で先頭に立とうとしているなんて、少し奇妙な話に聞こえる。それに日本は、コインチェック(2018年)とマウントゴックス(2014年)という、世界の二大仮想通貨不正事件の舞台となった国だ。

それでも日本は着々と発展を続けて、2019年のICO市場復活を後押しできるのか。

もちろん楽観論ばかりではない。弁護士の斎藤 創氏は、「(2019年に)日本で多くのICOがあるとは思えない」と語る。その理由として、市場の混乱と、日本では2018年にICOが1件もなかった事実を挙げる。これは金融庁が、トークンの売買には登録を義務づける一方で、1件も登録を認めなかったためだと、斎藤は語る。このためICOを検討している起業家たちは、日本以外の市場を物色してきた。

金融庁は難しいジレンマに直面している。仮想通貨のユニーク性と利便性を生かしつつ、伝統的な金融システムに仮想通貨をどのように取り込んでいくか——。ここ10年ほどは、仮想通貨がどのように使われ、取引され、決済され、究極的には保護されるかは、市場が決めるという考え方が先行してきた。だが、近年は不正流出事件が相次ぎ、投資家が安心できる環境ではなくなってきていた。

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