仮想通貨の低迷が止まらない。LongHashの分析では、2018年に最も人気の高かった50の仮想通貨のうち30通貨で価格が9割も下がった。

弱気相場は現在も続いている。ICO(イニシャル・コイン・オファリング、仮想通貨技術を使った資金調達)ブームが終わり、イーサリアムの価格も急落。ブロックチェーンと仮想通貨の業界全体が衰退に向かっているのではと懸念する声も上がっている。

こうした状況では、誰もが突破口を見つけようと必死なのは無理もない。STO(セキュリティ・トークン・オファリング)がにわかに大きな注目を集めているのは、そのせいだ。セキュリティ・トークンは、既存の証券(株式など)と結びついているため、ほとんどのICOトークンよりも厳しく規制されている。最近は投資対象として極めて大きな注目を集めているため、新たな仮想通貨バブルだと危惧する声も上がっている。

STOがブロックチェーン業界を救うと思いたくなるのは理解できる。だが、そうはならない。STOは、インターネットでファックスを送るようなものだ。より正確に言うと、STOはWinFaxと同じだ。

インターネットが登場したばかりの頃、WinFaxというソフトウエアを使うと、ウィンドウズ・パソコンからファックスを送信することができた。当時、コンピューターはモデムでネットにつながれていて、伝統的なオフィスワーカーの多くは、インターネットとは何なのかも、メールの使い方も理解していなかった。だが、ファックスは使い慣れていたから、メールを送るよりもファックスを送るほうが簡単だと感じていた。だからWinFaxが開発されたわけだ。

WinFaxを使えば、ファックスのようにインターネットを使うことができた。いま聞いたら変な話だと思うかもしれないが、当時はインターネットを新手のファックスに過ぎないと思う人が本当に存在したのだ。のちにノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンは1998年、「2005年あたりには、インターネットが経済に与える影響は、ファックス機程度だということが明らかになっているだろう」と語った。

STOも、トークンを発行する新しい方法に過ぎないように見えるかもしれない。だが、STOはICOとは大きく異なる。STOの最大の特徴は、発行されたトークンに証券の性質があり、証券規制当局(米証券取引委員会など)の規制を受け、関連法令を遵守しなければならないことだ。

セキュリティ・トークンはブロックチェーン(つまり分散型プラットフォーム)で頒布されるが、依然として、顧客確認(KYC)の条件を満たし、規制に従って取引されなければならない。

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