医療・福祉業界に特化した転職サイト「コメディカルドットコム」を運営するセカンドラボ株式会社が全国の医療・介護施設を対象に、人材紹介サービスの採用手数料と利用の実態把握を目的としたアンケート調査を実施しました。代表の巻幡和徳氏が発表の場で登壇し、業界を破綻させかねない人材採用問題について語りました。

医療・介護業界の現状

公的資金で運営される病院や介護施設は、一般企業と異なり財源が限られています。全国の54%の病院と32%の特別養護老人ホームが赤字経営と言われる中(注1)、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり社会保障費の増大や生産年齢人口の減少が懸念される2025年問題も迫ってきているのです。サービスの需要は増加する一方、人口の減少の中で、職員の人材を確保することは、重大な課題となっています。

それにも関わらず、本来設備投資や待遇改善など患者や職員の環境改善に使用されるべきお金が、採用費につぎ込まれてしまっている現状があるのだといいます。専門技術を持ち即戦力となれる医療・介護業界の従事者は、実は転職のハードルが低く、人の循環が起こりやすいといい、転職の際には人材紹介サービスを介すケースが増加していて、短い頻度で転職を繰り返す「悪意なき職員の循環」が採用費を押し上げる原因の一つとなっています。

さらに、極端な売り手市場のために、人材紹介サービスに頼らざるを得ない実情があり、施設と人材紹介サービスのパワーバランスが崩れてしまっているというのです。そのため採用費の高騰に歯止めが効かず、経営上の大きな問題となっています。

 (注1)一般社団法人日本病院会2018年「平成30エンド病院経営定期調査・集計結果(概要)」独立行政法人福祉医療機構2019年「平成29年度特別養護老人ホーム経営状況について」より

採用手数料増加と「おとり求人」

パワーバランス崩壊の悪影響の一つに、採用時の想定年収から計算する採用手数料の増加があげられます。介護職の採用手数料について、 2018年の調査では2.8%だった「想定年収の30%以上」が2019年7月には約5倍の14.5%に増加しました。また、「想定年収の25%」も10.9%から19.9%に増加。採用費が約1年の間に大幅に高騰しているという結果に。一方で「利用していない」は45.0%に対して37.8%と、人材紹介会社を利用する施設が増えていることが分かりました。

看護師の採用費についても同様で、「想定年収の30%以上」が2018年は5.7%に対して2019年では11.9%と約2倍に増加。「利用していない」は19.8%から15.0%に減少。看護師も介護職同様、採用費は高騰し、利用施設は増加傾向である結果がでたのです。

そして、もう一つ大きく悪影響を及ぼしているのがおとり求人の存在です。おとり求人とは、空求人とも呼ばれ、取引がないのにもかかわらず無断で掲載されていたり、募集が終了しているのに、その後も掲載され続けていたりする求人のことです。主に人材紹介会社が求職者を自社のサービスへの登録を促す手法として、募集企業に無断で掲載を行っているケースが多いのです。

セカンドラボが全国のクライアント施設向けに実施したアンケートによると、「無断で掲載されていた経験」で50.6%、「募集終了後にも掲載され続けていたことがある」が57.0%と、半数以上の施設が自らの意図していないところで求人情報として求職者に対して開示されていることが分かりました。

また、セカンドラボが求職者向けに実施したアンケートによると、「希望した求人情報に問い合わせたら終了していた」が64.4%、「問い合わせた求人とは違う求人を案内された」が66.1%と、半数以上の方が、自らの望んだ求人情報とは別の求人に誘導されたことがある結果がでたのです。

こうした転職市場に対して、病院・介護施設は不快に思い、問題意識をもちつつも、人材紹介サービスを頼らざるをえない状況になっているといいます。例えば、おとり求人に対して苦言を呈してしまうと、人材紹介会社からの人の供給がストップしてしまい、結果として人員配置基準を満たせず運営ができなくなってしまう可能性があります。このように人材紹介会社と施設間のパワーバランスがいびつな形に崩れてしまっているのは、医療・介護業界特有のものだといいます。

2019年秋には最低賃金の引上げも待ち受け、問題は山積みの現状、セカンドラボは今後、“おとり求人”是正や採用手数料の規制の他、医療・介護業界の採用に関する問題について、業界内外への周知を図り賛同者を募りながら、行政への働きかけを実施していく予定とのことです。