イスタンブールは、かつてローマ、ビザンツ、オスマンという三帝国の首都が置かれたトルコ最大の都市です。

1453年にオスマン帝国のメフメト2世がコンスタンティノープル(現在のイスタンブール旧市街)を攻略するまで、この街は東ローマ帝国の支配下にあり、多くの教会や修道院がありました。しかしこの街がオスマン帝国の領土になってからは、このような教会や修道院はイスラム寺院(モスク)に改修されていったのです。

イスタンブールを代表する観光名所であるアヤソフィア博物館やカーリエ博物館、ゼイレック・モスクも元は聖堂、修道院でしたが、オスマン帝国時代にイスラムの宗教施設に転用されたことは有名です。

このように、ほとんどのキリスト教会がモスクに転用される中で、わずかではありますが教会のまま残された建物も現存しています。その数少ない例の一つ、アヤイリニ教会をご紹介しましょう。

アヤイリニ教会は、世界遺産に登録されているイスタンブール歴史地域にあるトプカプ宮殿の敷地内にあります。宮殿へ続く一つ目の門で、1478年に建てられた皇帝の門をくぐった先の第一庭園にあるレンガ造りの建物です。

アヤイリニとは「聖なる平和」を意味し、その歴史は4世紀、コンスタンティヌス1世の時代にまで遡ります。

コンスタンティヌス1世は、ローマ帝国の皇帝として初めてキリスト教を信仰した人物として知られています。彼が自らの名前を付けて建設した都市がまさにこの「コンスタンティノープル」であり、アヤイリニ教会は彼の命によって建設された、コンスタンティノープルで最初に完成した教会なのです。

教会が完成したのは337年で、360年に最初のアヤソフィア寺院が完成するまでは、東方正教の祈りの場として人々の信仰を集めていました。教会の天井を見上げてみると、金色の背景に黒い十字架が描かれているのがわかります。これは東ローマ時代の教会にみられる典型的な十字架の例です。

その後、532年のニカの反乱で損傷、740年の地震、度重なる火災などで損傷するたびに、当時の皇帝たちの指示によって改修されてきました。コンスタンティヌス5世の時代に改修されたときのモザイクやフレスコ画は、現在もわずかながら残されています。

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