日本最大のAI専門展「第5回 AI・人工知能EXPO【春】」が、4月7~9日に東京ビッグサイト青海展示棟で開催された。最終日には、AI研究の第一人者である東京大学大学院の松尾豊教授による講演も行われた。

講演のタイトルは「DX時代のAI(ディープラーニング)活用最前線」。DXは「デジタルトランスフォーメーション」のことで、最近話題となっているキーワードである。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、AIなどのデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革させることである。DXの事例としては、横浜市での保育所認定の受付簿作成業務の時間が、手書き文字認識AIを利用することで500時間も削減されたというケースも報告されている。このようにビジネスにおける競争力の向上に大きく貢献するため、DXは注目されているのである。

ベンチャーも生み出す高専のコンテスト

こうしたDXを担う人材を確保するために、松尾教授が理事長を務める日本ディープラーニング協会(JDLA)が様々な取り組みを行なっていることも、講演内で紹介された。

DXの中心的な技術となるのは、ディープラーニングを含めたAIだが、企業がAIを導入する際に役立つ講座や検定試験、資格をJDLAは用意している。検定試験の「G検定」はAI(ディープラーニング)のリテラシーを身につけたい多くの人のニーズに応えるものだが、難易度が比較的高いため(2020年のG検定の合格率は59.56%)、ディープランニングをまず知るための無料のオンライン講座「AI For Everyone」が5月6日よりスタートする。

JDLAが主催する、高専生を対象にした事業創出コンテスト「DCON(ディーコン)」も紹介された。ものづくりを得意とする高専生がディープラーニングを活用した作品を制作し、その事業性を競うというコンテストだ。

松尾教授が率いる松尾研究室は多くの起業家を排出していることで有名だが、DCONもベンチャー企業を生み出しているという特徴がある。

2019年大会において、目視でチェックしていた工場などのアナログメーターの針を画像認識でチェックするMETERAIで優勝した長岡高専チームは、2020年7月に株式会社IntegrAIを設立。2020年大会において、自動点字翻訳システムの「:::doc(てんどっく)」で優勝した東京高専チームも、2021年2月にTAKAO AI株式会社を設立している。

DXによって幅広い分野においてビジネスチャンスが生まれると、松尾教授は語ったが、DCONで活躍した高専生たちの起業は、まさにその証明と言えるだろう。

松尾教授は、現在のAIの最新技術のトレンドとして、文から人間が描いたような画像を生成するAIや、AIの「自己教師あり学習」(AIが自ら“教師データ”を作り出して学習する仕組み)なども紹介した。

こうしたディープラーニングを含めたAIの格段の進歩によって、DXは今後、さらに大きく広がっていくことだろう。そのための人材育成なども含めて、JDLAの今後の活動にも注目したいところだ。