新型コロナウイルスの影響で、歯医者から足が遠のいている方は多いのではないだろうか。

デンタルケアがおろそかになることで、虫歯のみならず、自覚症状に乏しい歯周病患者の増加が懸念されている。

11月8日の「いい歯の日」に先立ち、東京都内で「“歯周病”最新治療プレスセミナー」が実施され、大阪大学大学院の村上伸也教授が登壇した。

身近な感染症「歯周病」のリスクとは?

歯周病は成人の8割以上が感染していると言われおり、ギネス記録で「人類史上、最も感染者数の多い感染症」と認定されたこともある身近な「病気」。感染症でありながら口の「生活習慣病」とカテゴライズされることもある。

歯周病の主な原因は、歯と歯ぐきの「歯周ポケット」と呼ばれるすきまに入り込んだ細菌だ。歯周組織の炎症を引き起こし、重度になると歯を支える骨を溶かして歯を失うこともあるという。

村上教授によれば、早ければ10代後半から歯周病が進行するリスクがあり、中高年になると罹患者が急増するのが歯周病の特徴だ。「進行スピードは1人1人異なり、稀ではあるが20代~30代の若年層でも歯を失う事例もある」と語る。年齢が上がるほどリスクは増大し、中高年になると、歯周病によって歯を失うケースが急激に増大する。

コロナ禍の影響で歯科医受診に抵抗感を持つ人が増加

それでは、歯周病の進行を抑えるためにはどうしたらいいのだろうか。

進行を抑制するためのカギは「毎日の正しいブラッシング(デイリーケア)」と「歯科医での前倒しケア(プロフェッショナルケア)」だ。

歯周病の進行を防ぐためには定期的な検診やケアを続けることが大切だが、現在はコロナ禍のため、「通院控え」をしている人が少なくないという。

科研製薬が500人の男女にインターネット調査を行ったところコロナ禍において「歯科医院への受診をためらう」「少しためらう」と回答した割合の合計は53%。半数を超えていた。

受診をためらっている人のうち3人に1人が「歯・歯ぐきの状態が悪化した」と回答しており、歯周病患者や予備軍の人たちにとって、コロナ禍が大きな影響を与えていることがうかがえる。

少しずつ治療現場に広がる世界初の最新治療薬「リグロス」

これまで、歯周病によって歯ぐきや歯槽骨を失った場合には「二度と元に戻らない」と言われていた。しかし、朗報もある。

1990年代初めから開発を始め、長期間にわたる臨床試験で有用な効果が認められた世界初の歯周組織再生医薬品「リグロス」が2016年に認可されたのだ。

「リグロス」は、歯槽骨(しそうこつ)を始めとした歯を支える歯周組織を再生するための治療法に用いられる歯周病薬だ。

じつは、この「リグロス」の認可は、これまで歯科医療の歴史を振り返ると「マイルストーン」的なできごとだと言える。

開発に携わった村上教授によれば、これまでの歯科治療は「ダメになった部分は、良質な材料で置き換えて治す」という認識が一般的だった。一方、『リグロス』の場合、もともと自分たちが持っている体の反応を利用して、歯周組織を修復することができる、という特性を持つ。

また、インプラント、詰め物、入れ歯などについては、用いられる材料によっては保険外診療になることがあるのに対し、「リグロス」はいわゆる保険診療が適応されるようになり、治療現場での広がりをみせているという。

歯周炎による歯槽骨の欠損や歯周炎の再発・悪化のリスクを抱える人、中等度以上の歯周病を抱えている人とっては、うれしいニュースではないだろうか。

村上教授は「将来的には、日本にはとどまることなくグローバルスタンダードになれば」と展望を語る。

歯周病を抑制するためには「前倒しケア」は欠かせない。

前出のアンケートでは40~50代の2割が「歯周病の悪化や治療の遅れで後悔した経験がある」と回答している。11月8日の「いい歯の日」を機に、かかりつけの歯科医に予約してみてはいかがだろうか。