シリア北部の医療に対する国際的な財政支援が減少を続けている。13年にわたる紛争を経て、地域には膨大な医療ニーズがあるが、資金援助の削減が進み、住民は医療アクセスを奪われている。国境なき医師団(MSF)は、本日ベルギーで開催される「シリア及び地域の将来の支援に関する第8回ブリュッセル会合」に出席する国や国際機関に対し、シリアの医療分野への財政支援を直ちに強化するよう呼びかける。

■閉鎖続く医療施設

ここ数カ月、シリア北西部の77の医療施設が資金不足のために活動停止に追い込まれた。その中には、女性と子どものための病院も9カ所あった。地元当局によると、イドリブ県とアレッポ県北部の医療施設の3分の1近くが、資金不足のために閉鎖されたか、一部活動を停止しており、地域の150万人が緊急医療を受けられない状態にある上、6月末までにさらに112の医療施設が閉鎖の危機に瀕しているという。

シリアの人道的ニーズに対応するためには、2024年に40億7000万米ドルの資金が必要とされているが、国連の「シリア人道対応計画(HRP)」を通じて調達された資金は、わずか6パーセントの3億2600万ドルにすぎない。こうした資金不足は、医療施設の機能低下、過密、薬剤やスタッフの不足に直結し、人びとにとって状況はより困難になっている。

シリア北西部のMSF医療コーディネーターであるカルロス・アリアスは、「病院の資金不足の最大の影響を被るのは一般の人びとです。医療が必要なときに、病院が閉鎖されていたり、医師や薬がなかったりするのです。たとえ医者を見つけたとしても、自分で薬を買ってくるよう言われるほどです。しかも薬は高くて手に入りません」と訴える。

■紛争と大震災の2つの危機

資金不足と医療体制への影響は、人びとの長期的な健康状態の悪化、感染症症例の増加、生活の質の低下につながる。例えば、集団予防接種が実施されない場合、子どもや妊婦などが特に影響を受ける可能性がある。この地域は、13年にわたる紛争と2023年2月の大規模地震により、すでにぜい弱だ。

水の不足も深刻化している。給水車や水道の普及が急がれるが、不安定な電力供給と高い燃料費によって妨げられている。その結果、人びとは水の消費量を減らしたり、安全でない水を飲んだりせざるを得ない。

シリア北西部のMSF現地活動責任者であるティエリー・ゴフォーは、「これ以上資金が削減されれば、シリアの医療体制の悪化に対応できないと、MSFは何度も懸念を示してきました。スタッフやパートナー団体は、資金不足による患者への直接的で深刻な影響を目の当たりにしています」と語る。

「ここに来てからというもの、病院が閉鎖され、医療を受けることがとても難しくなりました」。紛争を逃れ、シリア北西部で国内避難民となっているサリーム・ムハンマドさんは、「私は68歳で、糖尿病を患っています。病院の閉鎖は、私のような者にとって死の宣告なのです」と嘆く。

■「多くのNGOは公的資金が頼みの綱」

MSFはイドリブ県とアレッポ県で活動し、限定的ながら医療ニーズに対応している。2023年、MSFは100万人以上の外来診療、15万人以上の糖尿病や高血圧などの慢性疾患の診療を行い。2万件以上の分娩介助、2万5000件以上の心の個別相談を行った。

「MSFが支援するいくつかの医療施設は、シリア北西部の医療事情において極めて重要です」。イドリブ県のMSFプロジェクト・コーディネーター、カリム・エル・ラウィは言う。「民間の資金に支えられているMSFは活動を継続できますが、他の多くのNGOは公的資金が頼みの綱であり、その活動は資金削減によって困窮しています」

シリア北西部の医療アクセスを改善するためには、十分な資金を確保することが不可欠だ。それにより、震災で被災した医療施設を復旧させ、少なくとも震災前と同レベルの医療サービスの提供が可能となる。ニーズが増大する中での資金削減は許容できない。

■MSFのシリア北西部での活動

イドリブ県とアレッポ県でMSFは6カ所の病院を共同運営または支援する。小児科、産婦人科、外科、慢性疾患や皮膚疾患の診療、予防接種、メンタルヘルス、健康増進など、包括的な医療を提供。さらに、やけどの専門治療施設を運営しており、手術、理学療法、メンタルヘルス、緩和ケアなど、横断的なアプローチを行っている。また、性と生殖に関する健康と地域社会の健康増進に重点を置き、12カ所の一般医療センターを運営または支援するほか、11の移動診療を地域全体に展開し、遠隔地やアクセスの悪い地域の避難民に医療を提供する。その他、非感染性疾患のための2つの診療所の運営、救急車による患者紹介の促進、100カ所以上のキャンプでの水・衛生活動などがある。