2023年4月から内戦が続くスーダン。国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」およびその支援組織が、全土で凄惨な暴力を振るう。市民の保護体制は崩壊し、無差別の攻撃、拷問、性暴力にさらされている。医療従事者や医療施設への攻撃も繰り返され、市場や住宅も破壊されるなど、内戦は壊滅的な被害をもたらしている。国境なき医師団(MSF)はこのたび、患者やスタッフから聞き取った証言をまとめた報告書『人びとに対する戦争―スーダン内戦と暴力による犠牲者』(英文)を発表、紛争当事者に対し、市民とそのインフラや住宅地に対する攻撃の即時停止と、人道援助の規模拡大を要請する。
■ほとんどの患者は爆発、銃撃、刺傷による負傷
MSFはスーダン国内8州で活動し、多くの紛争関連の負傷者を治療してきた。そのほとんどは爆発、銃撃、刺傷によるものだ。この内戦の死傷者総数を一概に把握することは困難だが、MSFが支援するハルツーム州オムドゥルマンにあるアル・ナオ病院だけでも、2023年8月15日から2024年4月30日の8カ月半の間に6776人の暴力による負傷者を治療、その数は1日平均26人に上る。
同病院の医療従事者が市内の住宅地での砲撃の影響をこう証言する。
「20人ほどが病院に搬送されそのまま亡くなりました。到着時点で亡くなっていた人もいます。手や足がほとんど切断され、皮膚の一部だけでつながっていた人もいます。切断された人の足を付き添いの人が持ってくるようなこともありました」
■武器で脅され性暴力を受ける女性たち
報告書は、性別およびジェンダーに基づく暴力(SGBV)による被害、特にダルフール地方の衝撃的な実態も明らかにしている。スーダン国境に近い隣国チャドの難民キャンプで、2023年7月から12月にかけてMSFが治療した135人の性暴力被害者を対象とした調査では、90%が武装した人物に暴行を受け、50%が自宅で暴行を受け、40%が複数の人物によってレイプされていた。
これらの調査結果は、スーダンに残っている被害者の証言とも一致しており、自宅や避難ルートで女性たちが紛争の特徴である性暴力被害に遭っていることを示している。
2024年3月、スーダン南東部ゲダレフ州で起きた事件について、あるMSFの患者はこう証言する。
「近所のサリバ出身の少女2人が消息を絶ちました。その後、私の兄が拉致され、家に戻ってきた時、自分が身柄を拘束されていた家にその2人がいて、もう2カ月間そこにいたと話しました。そこでは女性を暴行する音が聞こえていたそうです」
■標的となる非アラブ系民族
報告書はダルフールの特定の民族を狙った暴力に関する証言も収録している。2023年夏に、南ダルフール州ニヤラでRSFと連携した民兵が家々を回ってマサリート人やその他の非アラブ系民族を標的にした略奪、暴力、殺害を行った際の目撃者証言もある。
ニヤラで受けた暴力から生還したある患者は、MSFに「男たちは銃で武装し、RSFの迷彩服を着ていました。私は何度も刃物で刺されて倒れました。男たちが私の家を出て行くとき、地面に横たわった私は意識がもうろうとしていました。1人が私を踏みつけながら、『こいつは死ぬ、だから弾を無駄にするな』と言っているのが聞こえました」と話した。
■止まぬ医療への攻撃と援助団体への妨害
一方、医療施設は継続的に攻撃され、略奪されてきた。今年6月の世界保健機関(WHO)の発表によると、アクセスが困難な地域では医療施設の20〜30%しか機能しておらず、それも最低レベルにとどまっているという。MSFでは、スタッフや物資、施設などに対する暴力や攻撃を、少なくとも60件記録している。前述のアル・ナオ病院は3回にわたって砲撃を受け、MSFが支援する北ダルフール州エル・ファシールの小児病院では、5月に空爆の衝撃波で集中治療室の屋根が崩壊、2人の子どもが死亡したことを受けて病院は閉鎖を余儀なくされた。
医療機関が懸命に住民の健康を守ろうとしているにもかかわらず、医療・人道援助団体はたびたび妨害を受けてきた。スーダン当局は人道援助従事者へのビザを以前より速やかに発給するようになったものの、人員や物資の移動のための通行許可証の発行を拒否するといった行政手続き上の妨害は依然として起きている。
MSFの事務局長、ビッキー・ホーキンスは「行政手続き上の妨害が内戦の影響をさらに悪化させています。スーダンでは承認のサインやスタンプが銃弾や爆弾と同じくらい人命を握ります。医療の妨害は、人の息の根を止めるのですから」と憤る。
「MSFは全ての内戦当事者に対し、人道援助の規模を拡大すること、そして何よりも、民間人とそのインフラや居住地域に対する攻撃を直ちに停止し、無意味な殺戮を止めるよう要請します」