オープンしたのはコクトーの死後、1965年のこと。建物の脇には「私は、あなた方とともにいる(Je reste avec vous.)」という一文が刻まれた碑が置かれています。

その言葉通り、こぢんまりとした美術館ながら、コクトーの遺志を体現した空間からは、彼の息づかいが聞こえてくるかのよう。館内には、晩年の作品の一部と、絵皿などの陶芸作品が展示されています。

窓際に展示されている作品のバックには、海やマントンの町並みが広がり、「自らの作品とともにマントンの風景を楽しんでほしい」というコクトーの思いが伝わってくるかのようです。

・ジャン・コクトー美術館

要塞美術館とはうって変わって、モダンな外観が印象的なジャン・コクトー美術館(ジャン・コクトー美術館セヴラン・ワンダーマン・コレクション)は、コクトー収集家として有名な実業家、セヴラン・ワンダーマン氏のコレクションをもとに2011年にオープンしました。

ベルギー生まれのセヴラン・ワンダーマン氏は、世界有数のコクトーコレクションを築き上げましたが、それらをコクトーの故郷であるフランスに戻し、後世に受け継ぎたいと考えたのです。

その候補地として名乗りをあげたのがコクトーゆかりの地であるマントン。フランス文化省の後押しもあって、2005年に990点のコクトー作品と840点の関連作品の寄贈が実現。2008年に新しいジャン・コクトー美術館の建設が始まり、その3年後に晴れて開館の運びとなりました。

館内では、デッサンや絵画、原稿、写真、映像、オブジェにいたるまで、幅広いコクトー作品とその関連資料が展示されています。

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