先日、科学ジャーナリストの松永和紀さんが、朝日新聞の「学力も左右する? 朝ごはんが大事な理由」という記事について嘆いておられました。

執筆者は坂本弘美さんという株式会社タニタヘルスリンク所属の管理栄養士さんなのですが、確かに記事を見る限り良くある感じの「因果と相関をごっちゃにした例」です。見ようによっては疑似相関のような偽りの関係性だと指摘したい人も出かねません。

学力も左右する? 朝ごはんが大事な理由:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/SDI201803195209.html

当然、ネットである程度データの読める知見のある人であれば「それはあくまで相関関係であって、朝飯を食べるのが絶対善としても因果関係と取り違えるような記事にしたら誤解する人はいっぱい出るであろう」と懸念するわけでして、実際にSNSでは真に受ける人続出で困ったものだなあと思うわけであります。

「健康な日々を送るために朝ご飯を食べよう」と呼びかけるところまでは、おそらく善意以外の何物でもないのです。ただ、そこで「毎日、朝ごはんを食べる子どもほど学力が高い傾向がある」という記述とともに日中の血糖値の動きが学力に影響するような触れ方をすると、とたんに誤報扱いになってしまいます。

というのも、「朝ご飯を食べるから学力が高い」のではなく「朝ご飯を毎日食べられるような規則正しい生活を送れ、子供の学力を引き上げらえれるような余裕のある家庭がある」という話でしかなく、規則正しい生活を送れない家庭が子供の学力を引き上げるために朝飯を無理に食べさせることは解決にならないのと同じです。

こういうのを見ると、科学的報道って本当にむつかしいよなあ、と思うわけですよ。

「朝ご飯を食べる習慣を身につけましょう」と力説する記事は、朝に親の出勤と子供の投稿時間帯が異なる共働き世帯からすれば家庭に無理な負担をかけることになりますし、必要なことは本来は定期的にきちんと食事を摂ることなので朝ご飯を食べずに一日二度食事をする生活を長年続けている人のほうが健康的に安定するかもしれないわけです。例外を言い出せばきりがないし、必要なことは「朝ご飯を食べる習慣」ではなく「どのような習慣であっても家族ごと、個人ごとの生活のペースをきちんと守り、続けていくことで生活上のストレスを減らすこと」なのかもしれません。

健康や家庭の習慣のような分かりやすい事例であっても誤報のように見えてしまう記事が出る状態ですので、ましてやいろんな立場で見解の異なる情報がメディアで扱われるとき、そのメディアの論調が本当にきちんとした因果関係に基づくものなのかどうか、読み手側の情報を解釈する能力が問われることは言うまでもありません。

また、この手の記事の解釈の問題が出るとき、どうしても「だから朝日新聞は駄目なのだ」とか「新聞は信頼できない」などと、急に主語が大きくなりがちです。せっかくネットが普及して、読み手も書き手も距離が近くなったのだから、もう少し品質を高められるような方法が上手く相互に影響し合いながら実現できないのか、思案する次第であります。