■ライブで暴れたら誉められた

──そこにパンクが注入されたら、そりゃひどいことになりますよね。

増子 ひどいもんだよ!『爆裂都市』(監督/石井聰互)を観てちょっと勘違いしちゃったもんね。

──陣内孝則とザ・ルースターズとザ・スターリンと町田町蔵が出演していた伝説のパンク映画『爆裂都市』が、実は日本のパンク界に良くも悪くもすごい影響を与えてたりするんですよね。

増子 すごい影響を与えてると思う。

──「パンクはこういうものに違いない」って間違った解釈をしちゃった人たちが全国各地に出現したみたいなんですよね。あの映画のせいで日本全国で「ライブ潰し」っていう文化が生まれて(笑)。

増子 そう! 俺らも一番最初はそうだったしね。それでいいんだと思ってたから。「これは金もかかんねえしいいぞ!」なんつって。

──「ライブなんか乗っ取りゃいいんだ!」みたいな(笑)。

増子 そう、楽器もいらないし。ついでに持って帰ってきちゃうからね。札幌に駅裏8号倉庫っていうライブスペースがあって、倉庫なのよ。アート系とか演劇とかもできるところで、もともと国鉄の倉庫でレンガ造りなんだけど、下が土なの。そこがめちゃくちゃ安くて高校生のときに何回かやったんだけど、めちゃくちゃやればやるほど誉められるんだよ、そこのPAの人に。「君すごいよ、絶対続けたほうがいいよ!」って。それがエマーソン(北村)さんなんだけど、エマーソンさんが大学生のときにバイトしてたの。いままで暴れたら怒られてたのに、こんなことで誉められるのかと思って、これは向いてるなと思って。

──暴れたら誉められたからミュージシャンになった(笑)。

増子 そう、やればやるほどいいのか、パンクすげえと思って。それがだいぶ勘違いだったね。

──でも、これだけ続いてるわけですから間違ってはいなかったはずなんですよ。

増子 間違ってはいなかったね。ただ、東京出てきてビックリしたのは、バンドマンたちの学歴が、意外と早稲田とか出てたりするじゃん。

──もっとワーキングクラスかと思ったら。

増子 札幌から来てるのみんな高卒、中卒だからね。パンクバンドなんてそういうヤツらがやるもんだと思ってたからビックリした。「大学まで出てなんで仕事しないの?」っつって。ホントビックリしたね。音楽的にどうこうなんて考えたことなかったもんな。

──とりあえず激しいことがやれればいい。

増子 そうそうそう、あとフラストレーションだよね、言いたいこと言いまくって当たり散らせるっていうさ。パンクってそれじゃない。だんだんやっていくうちに思ったのは、いまこういうふうに怒ってるんですよっていうのを説明しがちだけど、本来まったくいらないんだよね。たとえば国に怒ってるとか、どっかの政治家に怒ってるとか、いろんなことがある。でも、「それどういう理由ですか?」って言われたら、「なんとなく気に食わねえ」でいいんだよ。

──アナーキーレベルでいいんですよね。

増子 そう! ホントそう!

──天皇制批判かと思ったら「♪頭くるぜまったくよ、タダ飯食ってのうのうと、いい家住んでのんびりと」「何が日本の●●だ、何にもしねえでふざけんな」程度だった『東京・イズ・バーニング』ぐらいの感じで。

増子 そう、特に思想はないっていうね。それでいいんだよ。そこを変に賢くなっちゃって、言ってることも理論武装じゃないけど、そういうふうになるとどんどんつまんなくなっちゃうよね。もっとバカで、その場の怒りに任せてるもののほうが美しいよね。

──わかります。深みのない主張ほどなぜか心に届いたりするんですよね。

増子 最高だよ! ただ腹立ってんだもん。それで十分なんだよね。怒ってることに自分で説明つけるなんちゅうのは、どっか冷静なんだよね。それはおもしろくないよな。

──それがパンクから学んだこと。

増子 そう、パンクから学んだことだね。結局バカなまんまっていうか、STAY GOLDじゃないけど、STAYバカだよね、ずっとバカでいるっていうかさ。バカでいるための努力をしなきゃいけないなんて思わなかったね。

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増子直純(ますこ・なおずみ)●1966年、北海道出身。1984年に札幌にて、自身がボーカルを務めるバンド怒髪天を結成。1991年にメジャーデビュー。1996~1999年の活動休止期間を経て、2004年に再びメジャーでのリリースを開始し、2014年には日本武道館ワンマン公演で大成功をおさめた。個人としても幅広い活動を行なっていて、関ジャニ∞「モンじゃい・ビート」やももいろクローバーZ「ももいろ太鼓どどんが節」など、提供した楽曲も多数。桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」やKIRINの「のどごし〈生〉」などのCMにも出演/歌唱していて、お茶の間での認知度も高い。現在、LIVE DVD&Blu-ray「怒髪天presents“響都ノ宴”10週年記念『夢十夜』」が好評発売中。

●ライブBlu-ray&DVD(+シングルCD)「怒髪天presents“響都ノ宴”10週年記念『夢十夜』」好評発売中

怒髪天の恒例企画「響都ノ宴」を初映像化。バンド結成の1984年から活動休止する1996年までのアーリー怒髪天イヤーズ。活動再開の1999年から2004年までの現在の怒髪天の礎となったフライハイトイヤーズ。2004〜2006年のちょっと濃い味アーリーテイチクイヤーズ。以上の3つの時期のライブ映像を収録!特典はドラムス坂詰克彦のソロセカンドシングルCD「待っているのよ」

Blu-ray:税別8000円(2枚組、CDシングルと特典映像付き)
DVD:税別7000円(3枚組、CDシングルと特典映像付き)