プロインタビュアーの吉田豪が、いまもっとも旬で、もっとも注目する人物に直撃するロングインタビュー企画。今回のゲストは、“JAPANESE R&E(リズム&演歌)”の旗印を掲げるロッバンド「怒髪天」を率いる増子直純さん。

エモーショナルな熱い音楽で支持される怒髪天ですが増子さんの人生も濃厚そのもの。そんな増子さんの人物像を全3回に渡って掘り下げていきます。

怒髪天 増子直純×吉田豪(1)「怒髪天はもともと愚連隊みたいなものだった」|インタビュー

■「死にたい」ではなく「殺したい」

──大人になって結婚したりするうちにバカはやりづらくなっていくわけで。

増子 そう。だから、よりやらなきゃいけない。そのリスクを背負ってもバカだっていうところがしびれるよね。人間、生まれてきて気を遣わなきゃいけないのって両親ぐらいだと思うんだよ。この歳になってわかるけど、子供を育てるのってたいへんだよ。嫌な仕事もしなきゃいけないし。そうやって育ててくれた両親に対してはある程度気を遣わなきゃいけない。でも、そのふたりだけだよね。その親が最終的に呆れて、「まあ、生きててくれりゃいいわ」ってお達しをいただいたら、もうほかに何も遠慮することはないじゃない。

──あとは好きにやればいいだけですか。

増子 ホントそこだけだと思うんだよね。みんな、それ以外のところに気を遣いすぎてるっつうか。誰かに好かれたいと思ってるっつうのはまだマシで。でも、いまはそれ以上に嫌われたくないと思ってるんだよね。だから自分からアグレッシブにいってない。

──嫌われるかもしれない表現だからこそおもしろいわけですからね。

増子 そうだね。だから、俺なんかたまに友達とか仲間から聞いたりするけど、どこかで俺らのことを叩いてるヤツもそりゃいるよ。暑苦しくて嫌だとか、頭が悪そうとか。そういうの俺、すごい好きなの。「そういうのありましたよ」なんて送ってもらうと、ちゃんとそれ写メ撮っておくぐらい。俺が頑張れば頑張るほど、俺を嫌だなと思ってるそいつが嫌な思いするんだったら、いくらでも頑張れる。

──それをモチベーションにして(笑)。

増子 俺が頑張ればこいつがすごい嫌な思いするのかなと思ったら、それ一番の攻撃じゃない。だから変に心が折れたりしないもんね。ツイッターだなんだで叩かれて、炎上したら心が折れちゃって病んじゃってみたいなことあるじゃん。いまの若いバンドの歌詞とか見てるとさ、すぐ「死にたい」だのなんだの言ってるけど、俺なんか死にたいなんて思ったことないよ。ぶっ殺したいと思ったことは何万回もあるけど。そこの違いは音楽に相当出るんじゃないかなと思って。

──それは完全に出ますよ。増子さんはしんどいときも「死にたい」よりは、しんどさの問題になってる誰かを殺したほうが解決するでしょ?っていうタイプだろうし。

増子 まったくそうだよ。俺を苦しめる社会を殺したい! 基本そうじゃない?

──解決するのはそっちですよね。

増子 それで頑張っていかないと、俺が何を悪いことした?っていうのが基本的にあるからね。

──……多少してはいるんじゃないですか?

増子 あるかなあ? まあ多少はね。だけど、迷惑をかけないで生きるっていうのも程度問題だよ。どんな問題でも何かしら人に迷惑をかけてかけられて、そんなのお互い様じゃない。そのへんも希薄なんだよな。あと、おもしろいヤツがぜんぜん出てこられなくなってるのがつらいよね。ショーケン(萩原健一)を許せないっていうのはさ……だってもうショーケンなんだよ? そういうことするからショーケンなんだよ。

■犬をなでるときも緊張感をもってる

──すごいわかります!

増子 でも、それやっちゃダメだって言われたらもうどうにもならないよ。

──勝新太郎とかに怒るのと同じですよね。そういう人だし、そこがいいんだし。

増子 ホントだよ! そういうところがいよいよ締めつけられてるというか。ここからおもしろい人ってもう表には出てこられない時代なのかなっていうか、もったいないよね。

──ショーケンが薬物で捕まって瀬戸内寂聴さんのお寺で修行していた時期に、どうしても観たいライブがあって寺を抜け出したっていうの知ってます?

増子 あ、ホント?

──それで行ったのがPILの初来日公演なんですよ。

増子 ぜんぜん懲りてねえな(笑)。

──そうなんですよ。感動するじゃないですか、「え、あの歌い方ってジョニー・ロットン(当時はジョン・ライドン)の影響もあったの?」っていう。

増子 素晴らしいね。ショーケンの昔のライブ盤とか最高だよね、シラフのわけない(笑)。いまでも聴くけど、ライブ盤はホントに素晴らしいよ。ドアーズと変わらないよ。

──ブレイク・オン・スルーしてジ・アザー・サイドにいってる感じ(笑)。

増子 そう、完全に現世にいない感じだよね。浮き世離れしてるっていうか浮き足立ってる感じだよ(笑)。そして、そのテンションに誰もついってってないっていうのが最高なんだよな。

──数年前のドキュメンタリーとかも最高でした!

増子 俺らの上の世代でおもしろいなと思う人っていろいろいるけど、キレどころがわかんない人ってやっぱりおもしろいんだよね、興味が湧くっていうか。「これ怒んないの?」みたいな。で、「これ怒るの?」みたいな。そういうところがチャーミングだったりするんだよな。

──怖さがどこかにあって欲しいんですよね。

増子 そうだね。なんでもそうじゃない。散歩してるデカい犬とかに、女の子が「よしよしよし」なんて初対面でやってたりするけど、あの犬の瞳の奥にあるガラス玉みたいな目の、おとなしいけど絶対に言葉が通じないな感っていうかさ。

──ダハハハハ! 当たり前ですよ!

増子 あれに恐怖を感じないのかな? それこそキレどころわかんないじゃん。急に来るよ、あいつら。

──大型犬は温和だから、そりゃかわいいし撫でするけど、ケンカになったら確実に勝てないなって正直思いますよ。

増子 そう。なのに、すっごい無防備になってるヤツ多すぎるよ。犬はかわいいし俺も好きだけど、言っても畜生だからね。「ダメだよ」って言ったって止まるもんじゃない。そういう部分だよね。

──そういう緊張感はないのかっていう。

増子 そういうこと。生き物に対してね。

──増子さんは緊張感を持ちながら撫でてるんですか?

増子 もちろん! 必要以上には立ち入らない感じで。まあ、自分とこの犬だったら別よ。

──それはもう上下関係ができてますからね。

増子 そうそうそう。人ん家の犬はちっちゃいのでもダメだね。「よしよし」ってやるけど、常に構えてるね。

──いつ何があってもいいように(笑)。

増子 そう、「来るのか?」って絶対に目は離さないもん。「よしよし」って頭なでたって底知れない目をしてるからね。でも、人間もそうなんだよね。電車とかでも大丈夫かなっていうようなオッサンで底知れない目をしてるヤツとかいるもん。あんなの中学生ぐらいがからかったら、下手すると殺されるよな。

■日本独自のパンクファッションはひょうたん?

──何も知らず無邪気にいじったら。

増子 何も知らずに。でも、東京もおもしろいよね。すげえのいるなと思ったもん。昨日、新宿で山手線に乗ってきた爺さんがいて、ちょっとホームレスっぽい感じなんだけど、耳がすげえとんがってるんだよね。なんだと思って見たら、聞こえが悪くなってるんじゃない? 段ボールで補強してるんだよ。

──え!
 
増子 耳がデカくてとんがってて、ガムテープで留めてるんだよ。すげえな、補聴器かと思ったけど感心しちゃった。人間の工夫ってこういうもんだろうなと思って。だって完全に宇宙人だもん、もうちょっと丸くせいよっていうさ。それでふつうに歩いてたからな。あと、どう考えてもヅラだろっていう、何年も被ってて色も変わっちゃってるし、ただゴム乗っけてるみたいな爺さんとか最近は見ないよね。

──指を差したくなるレベルで違和感のあるカツラの人は減りましたね。

増子 誰も注意しないのは一人暮らしだからかもしれないけど、いろいろ自分の姿が写る機会ってあるじゃん、鏡だけじゃなくて。それをくぐり抜けてここに来てるのかなと思うとドラマ感をじるよね。誰もツッコめないもん、底知れないよね。

──そういうの見てると負けてられないみたいな思いが出てくるんですか?

増子 たまんねえな、人間っていいなと思うよね。おもしろい人に会うと楽しいよ。

──ただ、上京してそういう人を見て「ヤバいな」とか言ってる頃の増子さんだって、腰にひょうたんとかついてるわけですよね(笑)。

増子 それで縄を巻いてたもんね。これからは日本のファッションだと思って。

──ふんどしもして(笑)。

増子 そう、だいぶ勘違いしてたね。いまでもその格好はカッコいいと思うけど、俺的には。

──日本独自のパンクとは何かとか追求していくと、そうなって。

増子 そうそうそう、追求していくうちにだんだん違うチャンネルひねっちゃってたね。これは酒を入れとくのに便利かなと思って、ひょうたんっていいなと思ってるうちに。いまモヒカンで歩いててもバンドとか何かやってる人だなと思われるだけじゃん。俺が高校のときなんかインディアンかと思われてたからね。あと、弁髪が一時期仲間内で流行ったときの笑われっぷりね。すれ違いざまの女子高生が吹き出すっていうさ、怖いとかじゃなくて。わかんないだろうなとは思ってたんだけど。

──モヒカンの威圧感とは全然違う。

増子 ちょっと前がないだけでだいぶ違うんだよ、小学生に「ラーメンマンだ!」って言われて。

──言われちゃうでしょうね(笑)。

増子 俺の友達ですごいラーメン好きなヤツが弁髪やってたから、「たしかにラーメンマンだけど」って言ってたよ。

──ラーメン好きが高じてついに弁髪に(笑)。

増子 したんじゃないかと思われて、違うっつうの。変に「自分、変わってるんですよ」みたいな昔のサブカル女子みたいなのが増えてるよね。自分は人とは違う、みたいな。俺もそうだし周りもそうだったけど、自分がちょっとタガが外れてるんだなっていうのを身にしみて知ったとき、ショックだったもんな。

──自覚なくおかしなことをやってたわけですよね。

増子 ぜんぜん自覚なかったんだよ、ふつうだと思ってたから。ただ、ちょっと怒りやすいかなとか、ちょっとヤンチャかなー、ぐらいの。

──全然ちょっとじゃないですよ(笑)。

増子 それが「ちょっと病院に行ったほうがいいんじゃない?」なんて真顔で言われた日には、すごいショックだったよね。

■人違いのケンカの手打ちは鍋とビール

──増子さんのバイオレンス話の何がシビれるって、こんなものも実戦で使えるんだって勉強になることですよ。

増子 ああ、いろんなものがあるよ。シュガーポットとかね。

──そっち系じゃなくてプロレス技とかですよ!

増子 ああ、ブレーンバスターはすごかったね。

──ストリートファイトでブレーンバスターが出せるとは思わなかったんですよ。

増子 あれは効いたね、すげえ効いた。あとジャイアントスイング。ジャイアントスイングすごいよ! 伸びたまま戻れないんだよ、遠心力で。だから、振り回されながらも「コノヤロー!」って身体を起こしてズボンとかつかもうとするんだけど、たどりつく前に手を離されちゃうから。あれ大ダメージよ! 背中がアスファルトとか砂利でTシャツ穴だらけだもん、ザザーッとなっちゃって。

──プロレスはマットの上でやってるから安全なんですね。

増子 そう、あれは恐ろしい! あとブレーンバスターは縦に落としたら絶対ダメだからね。

──垂直落下式なんてストリートファイトでやったら死にますよ!

増子 絶対ダメだよ、死んじゃうよ。重さ全部が首にくるから。あと首投げもそうだよね。ちゃんと「投げるよ」って言ってくんないと、ヘッドロック逆にされてそのまま投げられたら首ズレるからね。俺もそれでけっこうズレたから。渋カジと7対1でやられて、人違いで。

──え!

増子 たいへんだったよ。とりあえず、なんとかふたり動けないようにはしたんだけど(あっさりと)。「よく顔を見ろ!」っつって。でも、ものすごいいろんなとこから蹴られて、鼻も折れちゃったし服もビリビリになったけど人違いってわかって、向こうも「すみませんでした」って言うから、「すみませんじゃねえだろ! とりあえずそこで奢れ」っつって鍋を食わせてもらったよ。

──ダハハハハ! その着地のさせ方は、さすがすぎますね(笑)。

増子 「お兄さんすごい強いっすねえ!」「強いっすねえじゃねえよ、おまえらがやってきたんだろ!」って。キムチ鍋を食ってビール1杯飲ませてもらって、「じゃあ、これで忘れてやるわ」っつって。そのあとドロップハンドルの自転車で帰ったの、服ボロボロでゾンビみたいになって。通りすがりのヤツ、ビックリだよ。鼻血もすごいし。まあ、鼻は折れても自分で治せるからね。俺、2回折ったけど、曲がっちゃったヤツを自分でグキッてやったら治る。ちょっと鼻が高くなったもんね、マジで。

──そこはプラスになった(笑)。

増子 プラスになった。「あれ? ちょっと高くなったかな」っつって。治ると思わんかったな。

──そこまでやられても、そうやって和解できるのが男気なんですかね。

増子 そうだね、意地っつうかね。あれのおかげで首ホントにおかしくなったからね。

──首とかシャレにならないですよ!

増子 シャレになんないよ。まあ、死なないでよかったなと思って。言っても俺もやったから。

──だから鍋でチャラ。

増子 そう、「鍋でいい」って言って。そんなもんだよ、本来は。恨みとかあってやったわけじゃないからさ。

■ケンカが終わったらノーサイド

──それこそブレーンバスターかけられた上京直後のバトルにしてもそうだろうし。

増子 池畑(潤二、元ザ・ルースターズ)さんにブレーンバスターかけられたときは、ちょっとうれしかったけどね。『爆裂都市』そのまんまじゃん、「来た-! 本物食らったー!」って思ったもん(笑)。ただ、「痛ってーー!!」だったけど。池畑さん優しかったな、Tシャツがビリビリになっちゃったら、自分が着てたヤツを脱いでくれたから、「これ着て帰れ、おまえそれじゃ帰れねえだろ」って。試合が終わったんじゃねえんだから。

──サッカーみたいに(笑)。

増子 ユニフォーム交換じゃないんだから。ジーザス・ジョーンズのTシャツ、「これ日本で売ってねえヤツだぞ」って言ってくれたんだよ。

──その時期だったんですね。そういう、終わったらノーサイドな感じが美しいじゃないですか。

増子 そうだね、そこからめちゃめちゃかわいがってくれるから。当時は殴るのももちろん好きだけど、殴られるのも嫌いじゃないっつうさ。「やるなあ、おい」みたいな。

──ある種のコミュニケーションなんですね。

増子 そうそうそう。「こいつ強えな!」みたいなのがたまらん時期もあったよね。痛いのは嫌だけど、そこにまた燃えるっていうか、「やるじゃねえかよ!」って、それはあったな。

──柴山俊之さんにからかわれたのが池畑さんたちとのトラブルのきっかけだったみたいですけど(最後は割った酒瓶で柴山さんの手を刺して救急病院に……)、その後の柴山さんの「やるじゃねえか」感もすごいですよね。

増子 ハハハハハハ! あれからめちゃめちゃ優しくしてくれて、しまいには曲も書いてくれたからね。4年前かな、急に電話で「作った曲、怒髪天に合うからこれやるわ」「マジっすか! くれるんですか?」っつって。俺らにとってARBでもルースターズでも、いい曲だなと思うと柴山さんが作ってるのが多かったから。その人が、かわいがってくれてるとはいえ、急に曲を作ってくれてさ。ロックヤクザの曲。どういうイメージだっつうの(笑)。

──「おまえらに合うから」って(笑)。

増子 そう思ってたのかっていう。だけど、そういう縁って最高じゃない。男に生まれないとなかなかないよ。そりゃあ暴力はいかんと思うし。

──暴力がないに越したことはないですけどね。

増子 越したことはないけど、マイナス面ばかりじゃないね。一方的なのはダメだと思うけど。

──それでわかり合えることもある。

増子 そうそうそう。イジメだなんだっていっても、小学校でも中学校でも、俺はイジメたつもりなくてもそういう具合になってた場合もあるかもしれないじゃない。でも、そういうヤツらといまだにつき合いあるよ。ライブも観に来るし飲みにも行くし、ぜんぜんふつうに友達だからね。そういうもんじゃない? 変に恨みを持たれるようなやり方してるわけじゃないし。

→続きはこちら

増子直純(ますこ・なおずみ)●1966年、北海道出身。1984年に札幌にて、自身がボーカルを務めるバンド怒髪天を結成。1991年にメジャーデビュー。1996~1999年の活動休止期間を経て、2004年に再びメジャーでのリリースを開始し、2014年には日本武道館ワンマン公演で大成功をおさめた。個人としても幅広い活動を行なっていて、関ジャニ∞「モンじゃい・ビート」やももいろクローバーZ「ももいろ太鼓どどんが節」など、提供した楽曲も多数。桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」やKIRINの「のどごし〈生〉」などのCMにも出演/歌唱していて、お茶の間での認知度も高い。現在、LIVE DVD&Blu-ray「怒髪天presents“響都ノ宴”10週年記念『夢十夜』」が好評発売中。

ライブBlu-ray&DVD(+シングルCD)「怒髪天presents“響都ノ宴”10週年記念『夢十夜』」好評発売中!

怒髪天の恒例企画「響都ノ宴」を初映像化。バンド結成の1984年から活動休止する1996年までのアーリー怒髪天イヤーズ。活動再開の1999年から2004年までの現在の怒髪天の礎となったフライハイトイヤーズ。2004〜2006年のちょっと濃い味アーリーテイチクイヤーズ。以上の3つの時期のライブ映像を収録! 特典はドラムス坂詰克彦のソロセカンドシングルCD「待っているのよ」!

Blu-ray:税別8000円(2枚組、CDシングルと特典映像付き)
DVD:税別7000円(3枚組、CDシングルと特典映像付き)