メディアの中枢にいながら、メディアを批判することは難しいものである。お笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志(54)がテレビ朝日に対し、率直な意見を述べたことが波紋を呼んでいる。

松本は、4月23日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)で財務省・福田淳一事務次官(58)がテレビの女性朝日記者に対してセクハラ発言したとの報道に対して以下のような自論を展開した。

「福田さんという人はエロの塊で、セクハラには違いない。だったら、そんなエロの塊のおっちゃんのところへ(女性記者の訴えを退けて)一年半もなぜ取材させたのか。テレ朝さんは『セクハラがすべてだ』って言うんですけど、そこに行かせたんだったら『パワハラ』じゃないのか。テレ朝さんは『パワハラじゃない』というなら、この女性は自分で前のめりに一年半取材してたことになる。それなら、これは『ハニトラ』じゃないのか。この問題は1本じゃないと思う。私の見解としては、セクハラ6、パワハラ3、ハニトラ1でどうですか」

テレビの中枢にいる人間としては、かなりテレビ朝日の責任に踏み込んだ意見だった。同じフジテレビでは19日放送の『バイキング』の中で、MCの坂上忍(50)が「テレ朝さんが偉いなと思った」と発言するなど、テレビ人たちは軒並みセクハラの訴えを黙殺したテレビ朝日側の責任には触れてこなかった。

同『ワイドナショー』では、犬塚浩弁護士(56)もテレビ朝日の対応について「女性社員からセクハラの申し出があったのにキチンと対応しなかった、組織的な問題がある」と指摘。「法令上(男女雇用機会均等法第11条)の義務違反の可能性がある」と厳しい意見を述べていた。

■テレビ朝日の対応をめぐってタレント・文化人の忖度も?

過剰にテレビ朝日を擁護する発言をしたのは、前出の坂上氏だけではない。テレビ朝日に出演するタレント・文化人の「メディア権力」におもねる発言が目立った。

特に目立ったのは、ジャーナリストとして女性問題やパワハラ問題に厳しい論説を重ねてきたジャーナリストの青木理氏(51)。青木氏は20日放送の『あさチャン』(TBS系)でテレビ朝日の対応について、「遅かったっていうのはある」と前置きしながらも、「今は一生懸命守ろうとしてるし、被害者の声を届けようとしている。何よりメディアの役割は真実の追及なので、テレ朝は偉い。他にも被害者はいるので、テレ朝を非難するべきではなく、後に続いていくべきだ」と伝えた。

青木氏は現在、テレビ朝日系列で『羽鳥慎一モーニングショー』のレギュラーをはじめ、『朝まで生テレビ』や『たけしのTVタックル』などにも不定期に出演している。そうした経緯も受け、ソーシャルメディア上では「露骨なテレ朝の擁護が見苦しい」「テレビ朝日のパワハラは無視? 青木氏は常に弱者の目線じゃないのか」「ブラック企業を擁護してるのと同じだということを分かっていない」と批判の声が上がっていた。

そうしたなかで、松本同様にテレビの中枢にいながら、怖れることなく公平にテレビ朝日の問題点を指摘している喝采を浴びたのが、20日放送の『バラいろダンディ』(TOKYO MX)に出演したデーブ・スペクター氏(63)だ。デーブ氏は、『報道ステーション』(4月19日/テレビ朝日系)で、「テレビ朝日はギリギリセーフ」などと発言したジャーナリストの後藤謙次氏(68)に対し、同局の小川彩佳アナ(33)が一瞬、不満の表情を浮かべ無言だったことについて言及。「テレビ朝日の危機管理は最悪。小川さんがコメントすべき。同じ局の人なので。#Me Too時代だから。それができないなら、小川さんが何で話さないんだって思います」とコメントした。

たしかに小川氏が番組中に不満の表情を浮かべながら、それでも何も言えないテレビ朝日の空気には同調圧力的な何かを孕んでいると見られても仕方ない。『ワイド! スクランブル』ほか、テレビ朝日でも活躍するデーブ氏が是々非々で批判を繰り広げたことには、ソーシャルメディア上で多くの賛辞が飛んでいる。

テレビ業界の人間が性犯罪などを起こした場合、ニュース報道では氏名が公開されないなど、大手メディアの「同業者」に対する甘さは度々指摘されている。坂上氏や青木氏のような忖度こそがテレビの古い「常識」であり、視聴者がソーシャルメディア上での情報とギャップを感じてしまう要因となっている。それでも、松本氏やデーブ氏のようにメディア内側から忌憚ない議論があがったことに、変わろうとしているテレビの未来を好意的に受け止めたい。