■33年前にはかくも美しい「日本人らしさ」があった?

翌朝、マニラ空港に着くや否や日本のマスコミ、海外通信社の取材攻勢を受けますが、日本大使館員による事情聴取も石川氏に対し行われます。そしてパスポートを所持っていない(幽閉されてたのですから当たり前です!)ことを理由に一時身柄を拘束すると言い出したそうです。

『お前らそれでも日本人か!』

『こんなとき「大変だったね」とか「ご苦労様、身体は大丈夫?」とか人間らしい言葉を掛けれないのか! 身柄を拘束?舐めたこといってんじゃないぞ!』

『だいたいお前らは石川君の救出に何ひとつやってないじゃないか! 石川君は絶対に渡さん!』

野村秋介氏は前日の正規軍に続き、大使館員にも大喝。自らの言い分を押し通したのです。その日、マニラのホテルでは世界中のジャーナリストが集まり、記者会見が行われました。東京から日本船舶振興会の笹川良一会長代理・笹川陽平副会長、自民党の山口敏夫議員、そして石川氏がひな壇に上がりましたが…本当の主役たち、命の危険をも顧みず救出を行った者たちの席はありませんでした。

本当の主役たちが求めたのはそんな晴れがましい舞台ではなく、石川氏と共に肩を抱き合って涙すること、日本に連れ帰り心配する母親に会わせることだけだったのです。

今から30年以上前の出来事【石川カメラマン救出劇】の概略です。野村秋介氏とK氏、G組長らの義侠心。無名故に自国からも見放された一人のカメラマンを命懸けで救出することは、例え現代であっても誰にもできることではありません。

そしてまた、石川氏の覚悟と潔さもまた立派なものでした。マニラの記者会見では「K・野村両先生、笹川会長から新しい命を頂きました」と冒頭で挨拶しています。助けてくれた人たちへの感謝、心配と迷惑を掛けたことへの謝罪、新しい命を授かったと言わしめる謙虚さ。救い出した者たちは何の見返りも求めず、互いの涙を報酬とした… これこそが「真の日本人」の姿ではありませんか! 僅か30数年前の我が国にはそんな「日本人らしさ」が健在だったのです。

反って今日、ジャーナリストの「自己責任」が世間で大きな話題となっています。渦中の安田純平氏の不遜かつ傲慢としか映らない言動からは、感謝や謙虚さは微塵にも感じ取れません。「韓国人・ウマル」を名乗ったからだけではありません。全てに「日本人らしさ」が欠落しているように思えて仕方ないのです。

30年前の当時でさえ野村秋介氏は「ゲリラによる身代金ビジネスだ」と断じています。ゲリラによる誘拐はビジネスモデルとして既に出来上がっているのです。「誰が、なぜ誘拐したのか」「どの様に幽閉されたのか」「どんな非人道的行為を受けたのか」「誰が誰と何を交渉したのか」「誰が誰にいくら払ったのか」その詳細な経緯がいずれ明らかにされていくことでしょう。私の友人・孫向文氏は見事に矛盾点を指摘しています。安田氏を「英雄」と持ち上げることの愚かさは言わずもがな、日々出てくる情報に注目することとします。

天に向かって唾を吐くと、必ず自身に降りかかってきます。我々多くの日本人は、そのことを生まれながらに理解していますし、幼少の頃から教えられ、身を以て経験することで修めてきました。非日本人的な出来事、事件を見るにつけ、立ち返るべき【真の日本人】が日増しに遠退くような、そんな焦燥感を覚えています。

【参考文献】
「激しき雪 最後の国士・野村秋介」山平重樹著/幻冬舎
「汚れた顔の天使たち」野村秋介著/二十一世紀書院