ロンドン北東部のストーク・ニューイントンのアパートの壁に2001年に出現したグラフィティ。
王の象徴である「王冠=Crown」と「道化=Clown」をなぞらえ、バッキンガム宮殿のバルコニーに立ち並ぶ、イギリス王室を道化風に描いています。

描かれてから8年も経った2009年、ハックニー地区政府は突如これを落書きと判断し、塗り潰し作業を開始しました。その作業を見た建物オーナーが慌てて作業をやめさせたそうです。
当時の英ガーディアン紙によると、街の景観を管理する地区政府の担当者は『落書き』を除去する前にオーナーに4度連絡をとろうと試みましたが、土地の登記簿に記載されていた連絡先が間違っていたため、連絡がとれないまま塗装作業を開始したそうです。
ハックニー市議会議員のアラン・ラウィン氏は「ハックニー評議会は、落書きが芸術であるかどうかを判断することはしません。私たちの仕事はハックニーの通りを清潔に保つこと、ただそれだけです」と語っています。

塗りつぶされる前には、バルコニーの周りにバッキンガム宮殿らしき建物が描かれていました。ちなみにこのグラフィティの人物部分を描き換えたリメイク版は、有名人や企業のために作品を制作することのないバンクシーにしてはめずらしく、イギリスのロック・バンド「ブラー(Blur)」のシングル「クレイジー・ビート(Crazy Beat)」のジャケットに提供されています。

・消えてなくなる前に

街中の壁に描かれたバンクシーの作品は、落書きとして消されたり、価値が上がってからは壁ごと盗まれたり、建物のオーナーによって切り取られてオークションにかけられたりと受難の道を歩んでいます。

今回の取材でも、ネットで最新情報を収集して出かけて見たものの、塀で囲われていたり、消されていたりしてすでに見ることができなくなっているものがいくつかありました。

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