宇宙空間に太陽光パネルを設置して、地球にエネルギーを送ることもできそうだが、今のところ信頼できる方法はない。しかし、宇宙から地球にデータを送ること、はエネルギーを送るよりはるかに簡単だ。宇宙にマイニング設備を置いて、採掘したコインを地球に伝送するほうが、実現の可能性は高いだろう。
もちろん、宇宙でマイニングを行うためには宇宙とのデータ通信速度が懸念されるが、これも大きな問題にはならない。マイニングは1回につき約3分の1のブロックが10分以上、5%のブロックが30分かかっている。しかし、宇宙から地球にデータを送る際は、これよりもはるかに速い通信が可能だ。
とはいえ、宇宙から送ったブロックが地球に届くのが遅すぎて採掘レースに破れ、行き場を失うリスクを最小限にするために、マイナーはできるだけ地球に近い場所を望むだろう。また、太陽の光を最大限に浴びるためには、地球の影ができるだけ小さい場所が好ましい。
そう考えると、極軌道が理想的だろう。極軌道上の衛星は、比較的低い高度を飛びながら、地球の影の外にいることができる。高度約2000キロから地球にブロックを送信する場合、香港とソウルを光ファイバーで結んだ通信と同じ程度の速さが見込める。伝送の遅れは問題にならないということだ。
ただし、極軌道には、大量の衛星がひしめく空間の余裕はあまりない。そこで最も効率的な解決策の1つは、極軌道の中に太陽光で稼動するマイニング施設のリングをつくることだ。そこで毎時数億テラワットのエネルギーを生成すれば、地球全体でマイニングに必要な電力を繰り返し供給できるだろう。
そのようなシステムが実際に導入されるまでには、かなり長い時間がかかる。経済的にも技術的にも克服しなければならない問題もある。太陽光パネルが安くなること。マイニング用チップの性能の進化を抑制すること(これは難しいかもしれない)。そして、衛星の打ち上げコストもはるかに引き下げる必要がある。
もう1つのアイデアは、ビットコイン開発者の1人、ピーター・トッドが2017年に提案したもので、マイニングによって「宇宙発電」のコストを引き下げるというアプローチでもある。すなわち、宇宙から地球に電力を直接、伝送するのではなく、ビットコインのマイニングを宇宙で行い、採掘したビットコインを地球に伝送する。そうすれば、宇宙から地球に電力そのものを伝送する手段を考える必要はなく、太陽光発電の価値をデータとして地球で受け取ることができる。
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