イスタンブールは、ボスポラス海峡によりアジアとヨーロッパに分かれるトルコ最大の都市です。ヨーロッパ側は、金角湾によってさらに旧市街と新市街に分かれており、エリアごとに全く違う雰囲気を楽しむことができるのは、イスタンブールならではの魅力です。

ヨーロッパ側旧市街のバラットというエリアは、かつてブルガリア人を含む、多くのキリスト教徒が住むエリアでした。ビザンツ帝国時代には多くのユダヤ人が住み、コンスタンティノープル陥落後はギリシャ人などの異教徒も増えました。

オスマン帝国時代になると、この辺りに住むブルガリア正教徒やギリシア正教徒は、コンスタンティノープル総主教庁が置かれていた聖ゲオルギオス大聖堂で礼拝を行っていました。しかし19世紀の民族主義運動で、ブルガリア人は独自の教会を建設することが許されました。

教会の建設地に選ばれたのは、金角湾沿いの非常に拓けた空間です。ブルガリア人たちはバラットとフェネルの間に位置するこの湾沿いに、小さな木造の教会を造りました。その後、より大きな教会を建設する権利を国から得ると、アルメニア人建築家の協力を得ながら鉄筋造りの大規模な教会を造り上げたのです。

建築材料の一部は、現在のウィーンで造られ、船に載せられて、ドナウ川から黒海に抜け、ボスポラス海峡を渡り、金角湾沿いの建設地に届けられるほど大掛かりなものでした。1898年に完成し、現在はイスタンブールに住むブルガリア正教徒の祈りの場として機能していることはもちろん、ブルガリアからの旅行者や他国のキリスト教徒からも注目されて、毎日訪問者があとを絶ちません。

真っ白でシンプルな外観からは想像がつかないくらい、教会内部は神聖な雰囲気が漂っています。ネオゴシックとネオバロックの折衷が見事で、天井から吊るされた豪華なシャンデリアや壁面の細やかな装飾、美しい色合いのステンドグラスに目を見張らずにはいられません。聖人のイコンに接吻する訪問者も絶えず、この教会がいまでも信仰の場として機能しているとことを、見学しながら身をもって感じることができます。

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