厚生労働省が2019年7月30日に公表した簡易生命表では男性81.25歳、女性は87.32歳と過去最高を更新しました。「人生100年時代」と呼ばれる昨今、私たちはどのように大切な財産を管理していけばよいのか? 今回は9月12日に名古屋市で開催された、三井住友信託銀行による「家族にやさしい安心の財産管理セミナー」に参加して、お話をうかがってきました。
登壇者は“波平さん”!? 年々上昇する平均寿命
本セミナーで講師を務めたのは、三井住友信託銀行株式会社 名古屋営業部の主席財務コンサルタント・林恒弘さん。冒頭で、今年放送50周年を迎えたアニメ『サザエさん』に触れて「(放送開始時の)50年前はどうだったのかと振り返ってみると、イメージをつかんでいただけるのかなと思っています」と説明していました。
さらに林さんは『サザエさん』について調べていたところ、サザエさんのお父さん、波平さんが54歳で、林さんと同じ年齢だったことに驚いたのだとか。当時は55歳が定年だったそうで、50年前の平均寿命は男性が69.1歳、女性が74.6歳だったことから、50年前と今では10歳以上の年齢への認識の違いがあるのかもしれません。
平均寿命とともに気になる“健康寿命”
「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されている健康寿命。2016年基準だと、男性は平均寿命が80.98歳に対して健康寿命が72.14歳、女性が87.14歳の平均寿命に対して健康寿命が74.79歳と、平均して男性なら8.84年、女性なら12.35年の期間、日常生活への支障が出る可能性があります。ちなみに愛知県の健康寿命は全国で男性が3位、女性が1位と優秀で、林さんは「ひとえに味噌が健康にいい、もしくはモーニングでしっかりトーストを食べているから」と“ご当地あるある”を織り交ぜて、会場の笑いを誘っていました。
和気あいあいと進むセミナーですが、ここで現実に引き戻すように「詐欺・トラブルの状況」という表が映し出されます。「オレオレ詐欺」の被害のうち、97.9%は60歳以上、「還付金等詐欺」では被害のうち95.5%が60歳以上と、1人暮らしの高齢者の増加とともに被害は深刻化しているそうです。
認知症への不安と加齢による出現率の増加
また「認知症への不安」という内閣府の調査では、「家族に身体的・精神的負担をかける」「家族以外の周りの人に迷惑をかける」といった本人の不安に対して、家族側も「家族以外の周りの人に迷惑をかける」「経済的に苦しくなる」といった不安を抱えていることが明らかになっています。
ここで「認知症患者数の増加」という、ドキっとするデータが示されます。78から79歳では男性が6.1%、女性が7.0%という認知症出現率ですが、80歳以降では増加の一途をたどり、85から89歳では男性は22.3%、女性は33.3%という数字になるそうです。2012年に約462万人、約7人に1人だったという65歳以上の認知症患者数は、2060年には約1,154万人、約3人に1人となるという推計もされており、長寿化とあいまって、認知症は誰にでも起こりうる身近な問題になりつつあります。
知っておきたい「成年後見制度」
ここで林さんは「成年後見制度」というキーワードを出して、その利用状況について解説しました。成年後見制度とは「認知症などによって物事を判断する能力が十分ではない方(以下、本人)について、本人の権利を守る援助者(成年後見人等)を選び、法律的に支援する制度」で、後見人となった方が、認知症になるなどして判断力が衰えた方の財産を不当な契約などから守ることができる制度になっています。
しかし、成年後見制度の利用者数は2018年度末で約22万人に留まっています。親族等が成年後見人になることによって、不正横領が行われたり、司法書士といった専門職が成年後見人になった場合は報酬を支払う必要があるため、その報酬が納得しがたい、といった批判的な評価があるそうです。また、法定後見制度は「本人が亡くなる」「判断能力が回復する」という状況になるまで利用し続けなければならないというルールもあるので、途中で止めることは難しく、二の足を踏んでしまうことも要因になっているようです。
医療費の立て替えは? 財産管理を巡る親族不和
認知症の親と同居している子どもは、別居の兄弟などから「親の資産を横領しているのではないか?」と疑いを受けることもあるそうです。ほかにも親の医療費の立て替えをしているのに、周囲はその負担に無関心で……といったことから、親族不和を呼ぶこともあるのだとか。
また、両親のキャッシュカードを使って必要なお金を下ろしているケースでも、万が一カードを紛失した際の再発行や、資金が足りなくなって定期預金や金融商品を解約する必要が生じた場合は本人の手続きが必要になり、認知症発症後は意思能力がないため、成年後見人の選任が必要になるそうです。また、認知症発症後は遺言書の作成もできなくなります。
制度の特徴を見極めて判断を
後見制度には、認知症の発症後に申立人が家庭裁判所に申立てることで後見開始となる「法定後見制度」と、事前に後見契約を結び判断能力低下後に後見開始となる「任意後見制度」があり、ほかには受託者(家族など)に資産の管理・処分を任せる仕組みである「民事信託(家族信託)」という選択肢もあります。さらに三井住友信託銀行では「まかせる支払機能」や、預貯金の資金凍結を回避することができる「100年パスポート」という信託商品もあるそうです。それぞれの制度・商品を比較して、最適なものを選びたいですね。
充実した100年へ
人生100年時代は、より長く人生をエンジョイできる時代になったとも言えます。健康的な食事や運動はもちろんのこと“社会参加”も重要で、「社会関連性指標と生命予後」という調査では、65歳以上の方で「家族以外との会話」が“なし”の場合は7年後の死亡率が28.3%、“あり”の場合は18.8%という驚きの傾向があるそうで、多くのコミュニケーションや社会貢献への意識が充実した老後のカギになりそうです。
最後に林さんは「認知症はすべての方が発症するわけではなく、その程度も人それぞれ。しかし何も準備をしないままに発症した場合の財産管理について、周囲やご家族が困難な状況になることは確かです。さまざまな財産管理の選択肢の中から、ご自身やご家族の事情に合ったものを選び、確かな安心の中で、人生100年時代をお楽しみください」と、総括されていました。