どこの国や地域に行っても、その土地ならではの食べ物や飲み物があります。

トルコには、朝起きてから夜寝るまで、一日の生活の中で欠かすことなく飲まれるチャイ(トルコの紅茶)や、飲み終わったカップに残ったコーヒー豆の模様で占いができるトルココーヒー、トルコアイスに使われているサレップ粉を使った冬の飲み物サレップ、新鮮な果物や季節の野菜をふんだんに使った搾りたてジュースなど、数えるときりがないくらいのご当地ドリンクがあります。

そんなトルコのご当地ドリンクの中でも、特に長い歴史を持つボザ、そしてイスタンブールにおけるボザの名店をご紹介しましょう。

ボザというのは、トルコの長い歴史の中で発展してきた発酵飲料です。日本を代表する発酵飲料の甘酒は米から作られますが、ボザは麦を原料にした飲み物であることに特徴があります。とろっとした食感で、ほのかに酸味と甘みがあるボザは、手軽なおやつ感覚で飲まれていることはもちろん、健康食品としても国民に愛されている飲み物なのです。

ボザは、10世紀頃に中央アジアで製造が始められ、その後トルコやバルカン半島の方にまで広がりました。オスマン帝国時代、ボザは自由に飲める飲み物でしたが、アヘンを混ぜたボザの製造が問題となり、当時のオスマン帝国の皇帝セリム2世によって一時製造自体が禁止されてしまいました。

17世紀には、イスラムの教えに則ってアルコール飲料の製造や販売が禁止されました。ボザは発酵飲料で、もちろんアルコール成分が含まれていたので、この時代もボザは製造されず、ボザを扱う店は強制的に閉店させられました。それまでボザを作って生活を営んできた一部の庶民にとっては、試練の時期となったのです。

しかしそれでも当時の人たちに愛されていたボザは密かに飲まれており、常備軍歩兵イェニチェリも好んで飲んでいたといいます。

一度はボザを売るお店が閉店してしまいましたが、19世頃にはオスマン宮廷でも好んで飲まれるようになり、再びボザが認められる時代が来ました。そのタイミングを見計らって、イスタンブールのヴェファ地区にお店を開いたのがハジュ・イブラヒムとハジュ・サディッキという二人の兄弟です。1876年創業のこのお店はその後一度も閉店することなく、現在まで営業を続けています。

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