コロナ禍によって深刻な影響を受けた業種は多いが、介護業界も危機に直面している。東京商工リサーチの調査では、老人福祉・介護事業の企業の倒産は2020112月の期間で112件に達し、介護保険法が施行された2000年以降、最多件数となった。

倒産増加の背景には、コロナ禍による利用者の減少などがあると考えられている。企業が倒産すると、介護サービスの利用者だけでなく、突然、自宅での介護を余儀なくされるなど、利用者の家族も大きな負担をしいられることになる。

慢性的な人手不足などの問題を抱えている介護の現場は、新型コロナウイルスの感染拡大でさらに大きな痛手を負ってしまった。介護崩壊の危機も叫ばれる中、当事者である企業はどのように考えているのだろうか?

鍼灸マッサージ業界における初の上場企業であり、訪問鍼灸マッサージ市場を牽引する株式会社フレアスは、高齢者を対象とした訪問マッサージ事業を行なっている。コロナ禍に対してフレアスはどう取り組んでいるのか? 同社の上席執行役員管理本部長兼経営企画部部長の竹原智威氏に聞いた。

QOL(生活の質)を上げるマッサージ

──まず、フレアスの訪問鍼灸マッサージの特徴を教えてください。

竹原 ご利用者のご自宅または介護施設までおうかがいして鍼灸マッサージを行ないます。医師の同意があれば、介護保険ではなく医療保険が適用できて、利用者の負担は13割程度に抑えられます。医療保険が適用されるので、ケアプランに左右されず利用できます。

──マッサージ自体はどういったものなのでしょうか?

竹原 介助なしで通院が困難な方の身体の痛みを緩和したり、関節可動域を広げることで、ご利用者のADL(日常生活動作)を維持・向上させ、QOL(生活の質)を向上させるための支援を目的として行なっています。健常者に対する長時間の心地よいマッサージとは違って、身体への負担を少なくしなければいけないので、短時間で効果的な施術を行なう必要があります。そうした技術の研鑽を目的とした社員教育にも力を入れています。

──コロナ禍における介護業界の現状をどのように受け止めていますか?

竹原 業界全体に想定以上の影響が及んでいます。鍼灸マッサージは社会生活で必要不可欠なエッセンシャルサービスと認識されていますが、202045月の緊急事態宣言下では想定以上に、ご利用を停止される方が多かったです。ただ、業界全体で感染対策を徹底することで、徐々に利用者が戻っているようにも感じています。

──フレアスのコロナ禍での状況は?

竹原 国内で第2波・第3波と思われる感染者が増加した際も、当社は衛生管理を徹底してサービスを提供しました。そのため、利用を継続していただくことが多かったです。緊急事態宣言が1月に再度発令されましたが、徹底した衛生管理を信頼していただき、多くの方に継続してご利用していただいています。昨年の第1波の時点から比較すると、利用者数も回復しています。

──訪問の際には、どのような対策をしていますか?

竹原 スタッフの朝夕の検温、手洗い、手指消毒、マスク着用、器具の衛生管理に加えて、ご利用者の方々に発熱などの症状があった場合には担当医やケアマネージャーに迅速に連絡するなどの対応を徹底しています。また、事業所の衛生管理も徹底し、緊急事態宣言が出たエリアの当社スタッフは抗体検査を定期的に受けるようにしています。

介護業界の就労人口を増やすために

──コロナ禍で危惧される介護崩壊を防ぐためには、どのような取り組みが必要でしょうか?

竹原 超高齢化社会を目の前にして、介護業界での就労人口が増加しないことには、介護崩壊は免れません。働くことに夢を持てる労働環境を整備することが重要でしょう。そのためには、福利厚生の充実や給料のアップだけでなく、事務的な作業を減らす仕組みづくりなども社員の満足度向上につながると考えています。弊社は民間企業としてこうした取り組みを行ないますが、国には、在宅療養者が必要とするサービスには手厚い報酬が支払われるようになる医療制度・介護制度の改定を期待します。

──フレアスの今後の方針を教えてください。

竹原 いわゆる「2025年問題」(国民の3人に1人が65歳以上の高齢者、5人に1人が75歳以上の後期高齢者になり、医療や介護などの社会保障費の急増が懸念される問題)が到来するまでに全国津々浦々に当社サービスを行き届けなければなりません。そのための事業拡大を積極的に行なっていきます。また、東大や産総研と一緒に鍼灸マッサージによって運動機能がどの程度改善するかという効果測定も行なう予定で、当社の施術症例をデータベース化する準備も進めています。

──訪問鍼灸マッサージの社会的役割をどのように考えていますか?

竹原 訪問鍼灸マッサージは、社会生活を営む上で必要不可欠なエッセンシャルサービスです。介助なしで通院が困難な方がご自宅や介護施設で利用されるのはもちろんのこと、独居で日常的に会話が減っていらっしゃる方々を定期的におうかがいすることで、そういった方々が精神的にも健康になっていただくためのお手伝いもしたいと考えています。