世界に名立たる絵画を無料で公開するナショナル・ギャラリー、テート・モダン、テート・ブリテン、ウォレス・コレクションなど、至極の美術館がひしめくロンドン。
その一方で、街歩きをしていると、ストリート・アーティストの制作現場に出くわしたり、政治性の強い絵を描くことで有名な覆面アーティスト・バンクシーの壁画に遭遇したりと、クオリティの高いストリート・アートの聖地でもあります。
今回はそんなロンドンの中でも他に類を見ない小さな小さなストリート・アートをご紹介しましょう。
小さなアートのカンバスとなるのは吐き捨てられたチューインガム。不思議なことに実際にガムを吐き捨てている人を見かけたことは一度もないのですが、ロンドンの路上は水玉模様ができているほどガムで汚れています。
そんな目障りで迷惑な路上のガムをアートへと変身させたアーティストが、『チューインガム・マン』こと「ベン・ウィルソン(Ben Wilson)」さんです。
ベンさんの地元であり彼が活動の拠点にしているのが北ロンドンの瀟洒な街「マズウェル・ヒル(Muswell Hill)」。
この街では他のどの街よりも多くのチューインガム・アートを発見することができます。
アーティスト一家で育ち、自らも自然とアートの世界へと進んだというベンさんは、かつては産業廃棄物や車、ごみなどに強い嫌悪感を持ち、それらから逃れるように森など自然の中で彫刻を制作していたのだそう。のちに街中の見苦しい看板などに絵を描きはじめますが、看板に絵を描く行為は器物破損として犯罪行為になってしまいます。そこで彼が目をつけたのが、路上に斑点模様を成すチューインガムでした。
『路上のガムがカンバスなら、作品を展示するギャラリーは不要、誰の所有物でもないゴミに描くので許可も不要、法も犯さない!』と、ベンさんがチューインガム・アートの制作を開始したのが1998年のこと。
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