昨日、シンガポールで行われた、アメリカと北朝鮮の「米朝首脳会談」のニュースを12日放送の『ワイドスクランブル』(テレビ朝日系)が特集した。その中で、映画監督の井筒和之氏が、東京にあるコリアンタウンへ赴き、歓喜に沸く在日コリアン2世や3世の人々の声を取り上げた。
番組では、一連の米朝会談の様子を報道した後、「井筒取材 米朝会談に沸く「世界」 在日コリアンタウン住民の本音」と題し、在日朝鮮人が多く暮らす江東区枝川の住民を、井筒監督が現地に訪れ取材した。
井筒監督は、飲食店のテレビで、トランプ大統領の会見を在日コリアンの人たちと一緒に観ながら歓談。「もう、うれしくて午前中見ていて涙が出てきた」「(朝鮮)戦争が終わるという確信が持てましたね」と涙ぐむ在日2世の60代の人や、「この日のためにがんばってきた。朝鮮戦争を終わらせられる」という50代の在日3世の人など一様に喜びの声が聞こえてきた。
これを受けて、井筒監督も「若い人(金正恩委員長)と72歳(トランプ大統領)の会談が良かったのかな」と述べると、「今まで3代目(金委員長)は嫌だと言っていたやつらが、いつの間にか変わってきますからね」と、会談を開催に踏み切った金委員長を絶賛する在日コリアンの人の声まで聞こえてきた。
そして、ここの住民たちの願いは「夢は祖国統一」と口を揃え、最後には、昨日の会談が成功したかのように、井筒監督と在日コリアンの人たちでビールで乾杯をして、しめくくっていた。
スタジオでは井筒監督が、取材を受けて「終戦宣言はなされてないけれども、会うことが強く一番(ここから始まる)と言ってたな」と述べ、毎日新聞部委員の鈴木琢磨氏は、VTRを観て「感動ですよね、感動のエネルギーというのをバカに出来ないでしょ。この在日の人たちの」と感想を語り、「在日の人の思いを知っている政治家が必要ですよ、もっと! 日本の政治家が」 と、まるで在日の人をもっと手厚く保護しろと言わんばかりの論調で日本の政治家批判が始まる始末。一体、どこの国のテレビ局なのか分からない内容で進行した。
昨日の米朝会談で出された共同声明では「北朝鮮の非核化・体制保証」については盛り込まれたが朝鮮戦争の終結までは至っていない。また、非核化の期限やスケジュール、またトランプ大統領が掲げていた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」は、含まれなかったと各メディアが指摘、批判が広がっている。そして何より、日本人にとって重要な「拉致問題」についても会談では問題提起されたが、ほとんど前進しなかった。
そんな中、今回の会談を持ち上げ、わざわざ日本のコリアンタウンの住民たちの声や意向にスポットを当てた特集を組むのは、日本の拉致被害者家族に対しての配慮が足りないのではないだろうか。
さらには毎日新聞の鈴木氏が、米朝首脳会談に歓喜する在日コリアンの人々の姿を見て「感動」という言葉を使ったり、日本の政治家は在日の人たちの立場に立たないといけないというような論調は、拉致被害者家族の感情を逆なでしていると言っても過言ではない。
もちろん在日コリアンの人たちに罪はないが、無理やり感動ムードに包もうとするのが、ワイドショー番組制作スタッフの限界なのか、そう思わざるを得ない放送内容だった。