つるの剛士氏の新著『バカだけど日本のことを考えてみました』(ベスト新書)は、バランスのとれた良識で終始一貫した見通しのいい社会評論になっている。ここでいう「良識」は、フランスの哲学者ルネ・デカルトが『方法序説』(1637年)の冒頭で語った良識(bon sens)である。良識は物事を正しく判断し、何が真で何が偽かを区別する理性の働きである。良識や理性はすべての人に公平かつ十分に与えられているとデカルトはいう。問題なのは、この良識を持っているだけでは十分ではないということだ。より重要なのは、良識(理性)をまさに良く用いることだ。良識を良く用いることができれば、たとえきわめて歩みが遅くとも、その道は間違うことがなく、素早く走る人よりも、はるかに先に行くことが出来る、とデカルトは断言している。

つるの氏が本書の題名につけた「バカだけど」を、良識を発揮しながらゆっくり考える人と理解したい。つるの氏のこの時論の書は、日本の様々な問題を考え、そして前向きに歩みをすすめる意味で、改めてデカルトの「良識」の働きそのものである。

本書は、ツイッターでの“炎上”経験から得た、安保法制のときのマスコミや世論などの一方的な議論への違和感を契機にして、つるの氏が日本の歴史、政治・経済、そして教育の問題にそれまでよりも真摯に向き合う姿が生き生きと描かれている。なによりもバランスがいいのだ。物事のいい面とわるい面双方を考慮したうえで、自分の判断を下していく。そこにはわかりにくさはない。理路整然とはこの本のことを言うだろう。もちろん読者はそれぞれの問題でつるの氏と見解が異なるかもしれない。だが、どこで意見が異なるのか、読者はすぐさまわかることだろう。なによりもつるの氏の文章がとても穏やかなのが読むうえで心地いい。

またつるの氏は徹底的にリアリスト(現実主義者)でもある。安保法制問題や憲法改正問題、東アジアの安全保障上の脅威などについて、つるの氏の意見は世間的には「保守」とくくられるだろう。だが、その根底には、つねに人間は正しいことも間違ったこともする存在であり、それゆえに「理想」だけを掲げて満足するのは間違いであること。常に現実の課題に取り組んで考えを深めていかなければいけない、とここでもやはり「良識」が発揮されている。

「世界平和の歌を歌って世界が平和になるのであれば、僕は声が枯れるまでい続けます。しかし残念ながら、現実は違います。悲しいことに、人類の長い歴史はずっと争いの歴史でした。それでも僕は、平和を望みます。世界の平和は絶対的な理想。しかしそこにたどり着くためには、まず今、現実をどういうふうに変えていくべきなのか」、そのために現実と格闘していくとつるの氏は力強く述べている。

もちろんつるの氏は政治家でもまた経済学者でもない。だが一例として、消費増税問題についても、つるの氏のように教育や育児を考える識者の多くが増税賛成に傾斜する中で、問題をきちんと整理して、結婚にも出産にも育児にもお金が必要であり、それを消費増税で妨げるのは間違いだ、と実に明瞭に言い切っている。さらに消費税はむしろ廃止、百歩譲って減税とも述べている。そうしなければ景気の「気」が動かないと。この当たり前の意見がいえない人たちが多いなかで、つるの氏の発言はわが意を得たりという思いがする。心強い味方だ。

もちろん本書では、ハードな時論以外にも、つるの氏の幼少期にうけた学校教育のエピソード、専業主夫になったときの経験(これは実に共感する!)、“心配より信頼する”という子育ての姿勢など、具体的で魅力的な逸話が多く描かれている。なんとも豊かな色彩をもった本だ。いまの日本の問題にすんなり入るための入門としても使える。ぜひ一読してほしい。