X氏は(日本では)一流私立大学の卒業生で大学の運営に携わる外部委員を長年勤める大手輸送会社元取締役で、Y氏は同じく(日本では)一流とされる私立大学の社会人大学院で教鞭を取る現役の教授です。いずれも「有力子弟の入学を世話するために、(東京医科大学ではない別の)私立大学医学部への入学を斡旋し、実際に入学させた」経験の持ち主です。今回の文科省局長は事業認可の書類の書き方指導の見返りに子息を東京医科大学に入学させたとされていますが、X氏もY氏も「それ(入学の斡旋)そのものは違法ではなく、罪に問えないのではないかと思う」と説明します。

「そもそも『裏口入学』が悪いことだと思われて報じられる方がおかしく、私立大学では特に、建学の精神に見合った家庭や子弟を優先して入学させるのは当たり前で、単に学力が高い子を入学させる仕組みでやっている私立大学のほうが少ない」(X氏)、「むしろ東京医科大学は人気が高く、入れたくても入れられない。医学部に息子を入れたいのであれば、同じ私立のN大学やS大学を薦めている」(Y氏)と現状を結構あっさり説明してくれます。

「実際に、特定の宗教系の建学精神を持つ大学では、そういう宗教に帰依している信者を入学させることを優先するのは当然で、そのために大学を作り教えているわけですから、そこでその他宗派のご家庭の子弟が『医者になりたいから』と受験しても下駄を履くわけがない」(X氏)という言葉の裏には、少子化で大学も選抜される時代であるにもかかわらず医学部に我が子を入れたい家庭が多いため、いまなお医学部だけは狭き門であることの証左でもあります。

先日、私も『みんなの介護』で医師の需要について、厚生労働省の医師需給分科会や、医師等の働き方ビジョン検討会について触れたのですが、やはりそこであるのはブラックな職場の代名詞である医師、看護師を含めた医療業界に、今後大変な問題になるであろう超高齢化社会時代の社会保障という問題があります。つまり、一年間に子供の数が94万人を切ったいま、1万人近い医師が生まれる現状というのは「貴重な日本人の子供の100人に1人が医師になる」ことを意味し、その医師とはつまり医学部に入る人数の裏返しでもあって、そして医学部への入学者の約半数が浪人生である、という厳しい現実があります。

地方都市から医者がいなくなる!?戦略的な“無医村”づくりが進んで「急病になっても安心」という自治体はどんどん減っていくことになります

https://www.minnanokaigo.com/news/yamamoto/lesson23/

厚生労働省 医師需給分科会

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_318654.html

まさに日本の学問の頂点であり、理系たるもの医師がトップだぐらいの勢いなのですが、国立大学ではむしろ厳格な受験によって医学部の入学者が決まっているため、そういう国立医学部を目指そうにも都落ちして地方国立大学の医学部を目指す、それすらもダメで私立医学部に潜り込もうとする、という連鎖が発生し、最終的にY氏のようなブローカーみたいな有力者に入学の斡旋を頼むことになるのです。

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