東武東上線・東松山駅を中心に、約50軒ものやきとり屋が存在し、夕方になると「やきとり」の文字の書かれた赤ちょうちんが灯り始めるこの町は、夕方になるとまさに吞ん兵衛に愛される町へと変化する。

・味噌ダレやきとり発祥のお店、それが大松屋
東松山駅東口を出て、徒歩8分の場所、やきとりの文字が書かれたのれんを掲げる「大松屋」は、この地で創業し、今年で62年を数える老舗中の老舗。

お店の創業は1956年(昭和31年)。

1956年(昭和31年)と言えば、朝鮮戦争による特需によって急速に日本が戦後から復興し、経済白書に「もはや戦後ではない」という言葉が記され流行語ともなった年。

世間では故・石原裕次郎さんが日活映画「太陽の季節」でデビューし、映画館新築ブームが到来、日本が国連加盟が可決され、国際社会に正式復帰し、経済が上昇曲線を描きはじめていた、そんな時代に、こちらのお店は産まれたのだ。

・「やきとり」であって、「焼き鳥」ではない、それが東松山のやきとり
実はここ東松山のやきとりは、一般的な「焼き鳥」ではない。

こちらの大松屋では、豚のカシラ肉を炭火で焼いたものを「やきとり」と呼んでいる。

東松山は周辺で養豚が盛んである上に、食肉加工センターがあったことがきっかけとなり、こちらのお店が豚のカシラ肉を炭火で焼いてみそだれで食べるメニューを提供し「やきとり」と言うようになったとのこと。

安価で安定して豚モツが仕入れられることから、戦後の混乱期において多くの関東の人々の胃袋を支えた東松山、その歴史こそが東松山のやきとりの歴史なのだ。

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