“北野武詐欺”事件ですべてを失った?

──お父さんの話をもうちょっと掘り下げてみたいんですけど、どんな人なんですか?

上田 そうですね、お父さんもわりと「信じれば叶う、思考は現実化する」みたいな(笑)。

──ナポレオン・ヒル! そういう系の本を読むタイプですか。

上田 読むタイプで、札束柄の枕で寝てたりとか。

──ダハハハハ! かなり痛いタイプじゃないですか(笑)。

上田 「慎一郎、思いはすべて叶うんだ!」っていうタイプでしたね。お母さんはわりと常識人なんですけど、一時、お母さんに勧められたのか七田式右脳開発みたいなのやってましたね。そういう本をお母さんがけっこう持ってて、七田式のトレーニングを一時してたことがあります。ちょうど妻とつき合い始めたとき、僕は勝間和代にハマッてたんですね。妻にその当時のことをよく愚痴られるのは、デートに行こうって妻が言ってくれるんですけど、「30分なら取れる」って言ってたみたいで。

──忙しいわけでもないのに(笑)。

上田 そうそう。そういうこと言われたのがすごくショックだったって言われますね。とにかく生活を合理的に合理的にみたいな感じやったんですよ。

──まだ何もやってない時期なのに。

上田 そうです。自炊するのを時給に換算したらどうのこうのって妻に言ったり。それはまた高橋歩さんとかは別の意識高い系の感じで。

──その時期はTEAM-0の軌保博光さんに近いタイプだったんでしょうね。

上田 ……TEAM-0?

──もともと山崎邦正さんと一緒にやってた芸人さんが途中から意識高い方向に行って、映画を作るって言い出して芸人を辞めたりとか、路上詩人になったりとかしてたから、タイプとしてはそっちだったんだろうなって。そうだ、詳細が書いてないからずっと気になってたんですけど、「詐欺(通称、北野武詐欺)に遭い失意に暮れる」って昔のプロフィールに書いていた、これはどういうことなんですか?

上田 たしかにあんまり話したことないですね。これは高校3年生のときに『タイムトラベル』という、現代の高校生が戦争時代にタイムスリップしちゃう2時間ぐらいの戦争映画を作ったんです。それをDVDにして渋谷のハチ公前で売ったりして。当時、焼肉屋でバイトしてたんですけど、その焼肉屋に日中はパイロットをしてて夜は週2でバイトをしてるっていう人がいたんです。

──あからさまに怪しいですね。

上田 普段はパイロットをしてて15階建てのマンションの15階は全部俺の部屋だっていう人で。その人に『タイムトラベル』のDVDを渡したら、「俺の知り合いのオフィス北野の部長がすごく映画を気に入って、オフィス北野に欲しがってる。これからアメリカでの活動が多くなると思うから、とりあえず英語の勉強をしてくれ」と。

──ダハハハハ! それでTOEICとかやってたんですか!

上田 いま聞いたらなんのことやろと思いますけど、とりあえず英語の勉強をしてくれって言われたんで、僕はバイトを辞めて、ドリッピーという教材を買って。

──『家出のドリッピー』(笑)。

上田 そうです。あるときにそれが全部嘘だっていうことがわかりまして。お金を取られたとかではないんですけど、虚言癖みたいな人で。なんなんでしょうね、いつもバイト終わりにロイヤルホストに連れてってくれて全部奢ってくれるんですよ。

──むしろメリットあったぐらいじゃないですか。

上田 はい。ただ、僕の周りの人も大小ありますけど嘘をつかれてたんですよ。すべて嘘で、僕はすべてを失って。

──オフィス北野に入ってアメリカ進出するはずだったのに。

上田 そうです、実家にも電話して「すごいなあ!」ってなってたんですけど、みんなが「あのオッチャンに騙されてる」ってなって、その焼肉屋はオッチャンの住所を知ってるので家まで行ったんですよ。変な人やってことがわかったし、何するかわからないから包丁を背中に入れて。

──え!

上田 もうひとり騙されたヤツと一緒に行ったら、すっごいボロボロのアパートに住んでて。で、オッチャンが出てきたから「15階建ての、ベランダに風呂がある家に住んでるんじゃないんですか?」って聞いたら、「いまちょっと事情があって一時ここにちょっと住んでる」って言って。

──まだそう言い張って。

上田 で、「そうですか」って言って去ったんですけどね。それがあったんでバイトも辞めたし、区切りやと思ってなぜかわからないですけど丸坊主にしてヒッチハイクで東京に来ました。それがオフィス北野詐欺です。

──本物のオフィス北野とは無関係だった、と。

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