借金を抱えてホームレスに

──うまいやり口ですねえ。

上田 そうなんですよ。それは3ヶ月ぐらいですかね、僕は地元の幼なじみとかも巻き込んでやってたから、いまこの『カメラを止めるな!』の音楽をやってる鈴木(伸宏)くんを誘って。

──その人も被害者!

上田 被害者です。しかも僕、シルバーみたいな位置にいったんです。

──大勢巻き込んだから(笑)。

上田 入ったらわりとできて、シルバーみたいな位置にいって、週2~3回、FTっていう集まりがあるんですね、「コツコツしたサラリーマンになるな!」みたいなこと言われて。

──完全に洗脳ですよ(笑)。

上田 優秀な人はそこでスピーチをするんですよ。僕、スピーチを2~3回してけっこういい位置までいったんですけど。

──最終的には数百万円を失って。

上田 数百万円を失ったっていうのは、その音楽やってる鈴木とかも怪しんでたので、「じゃあ俺が代わりにおまえの分も出す」って言って、消費者金融5社ぐらいから借りて友達の分まで払ってたんですよ。

──うわー!

上田 それで200万ぐらいの借金を抱えましたね。その最中です、代々木公園とかでホームレスをしてたのは。それは1週間ぐらいで、そのあとにネット喫茶とかにずっといたり、マック難民というか、マックチキンだけ買って24時間営業のマックでずっと寝てたりとか、1ヶ月ぐらい家がない時期がありましたね。当時、ホントに痛かったので、一緒に住んでた幼なじみがいるんですけど、僕は玄関の扉とかに「情熱を超えていけ」とか貼ってたんですよ。

──ありがたいというか痛い言葉を(笑)。

上田 出発する前にそれを読んで。ナントカタクミ(山崎拓巳)さんって人いるじゃないですか、『魔法のドリル』とか自己啓発本を書いてる人。その人が物に名前をつけると愛着が湧くって書いてて、目覚まし時計とか蛇口とかにも百均で買ったシールを貼って名前をつけてたんですね。サイトウとかボブとかつけて貼ってたら、一緒に住んでたヤツがワーッてなっちゃって。

──「もう限界だ!」と(笑)。

上田 とかいろいろあって、その幼なじみと僕の家族が「目を覚ませ!」って言って。元旦の日にそういう集まりを作ってくれて、そのネットワークビジネスを辞めましたね。

──いい話ばっかりじゃないですか(笑)。

上田 これまでネットワークビジネスの部分はほとんど書いてこなかったんですよね。それはたぶん組織側に、そういうのを悪く思う人もいるからっていうことで止められたのかもしれないです。その組織にH兄弟っていうのがいて、すごいガタイのデカいお兄ちゃんと小柄な弟が幹部やったんですね。その弟のほうにすごくあこがれを持ってて、「慎一郎、もし『上田慎一郎』て書かれた本があったとしたら、そのページはおまえがめくっていくんだよ」とか、そういうことをけっこう毎日言われて。

──すっかりその気になって。

上田 そう(笑)。「Hさんすごいなあ!」って言ってましたね、一緒にやってたヤツと。ホントにいままでの人生はコメディ映画になるなと思います。

<次回に続く>

上田慎一郎(うえだしんいちろう)●1984年、滋賀県出身。中学時代に自主映画の制作を始める。2010年に映画製作団体PANPOKOPINAを結成。長編映画『お米とおっぱい。』、短編映画『恋する小説家』、『ハートにコブラツイスト』、『彼女の告白ランキング』、『Last WeddingDress』、『テイク8』、『ナポリタン』を監督。2015年にオムニバス映画『4/猫ーねこぶんのよんー』の1編『猫まんま』で商業デビュー。妻である、ふくだみゆきの監督作『こんぷれっくす×コンプレックス』、『耳かきランデブー』ではプロデューサーを務åめている。2017年製作の『カメラを止めるな!』が口コミによる特大ヒットを飛ばし、日本中で大ブームを巻き起こし続けている。

●映画『カメラを止めるな!』

山奥の廃墟で自主制作の役者とスタッフたちがゾンビ映画を撮っていた。そこへ本物のゾンビが現われるが、狂気にとりつかれた監督はカメラを回し続け……。映画専門学校ENBUゼミナールのワークショップ「シネマプロジェクト」の第7弾として製作された。当初は都内2館のみでの上映だったが、口コミで評判が広がり、全国で拡大公開されている。

監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈、秋山ゆずき
製作:ENBUゼミナール
配給:アスミック・エース=ENBUゼミナール
大ヒット公開中!
(C)ENBUゼミナール