これらの多くは、かつてあだし野で亡くなった人々のお墓。この地は、古くからの葬送の地で、かつては風葬が行われていましたが、のちに土葬に変わり、人々は石仏を建て、愛する人との永遠の別れを惜しんだのです。

何百年もの歳月を経て、無縁仏と化し、山野に散乱・埋没していた石仏が、明治時代中期にここに集められ、河原として整備されました。

ただひたすらに石仏と石塔が並ぶ光景は、まるで海のよう。無数の石の波が静かに語りかけてくるかのようで、その不思議な迫力に圧倒されます。

おびただしい数の石仏と石塔が安置されている西院の河原に足を踏み入れると、周囲の空気が変化するのを感じます。ここが、生と死のあいだであるような、現世と来世のはざまであるような、理屈では説明のつかない神秘的な空気が漂っているような気がするのです。

それは、数世紀にもわたって、大切な人との別れを惜しんできた人々の思いが詰まっているからなのかもしれません。

この特別な空気感は、あだし野念仏寺が閑静な奥嵯峨野に位置し、山々の自然に囲まれているからこそ。

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