かつて日本の高度経済成長を支えた集合住宅「団地」。無機質なデザインの建物が規則正しく建ち並び、昭和の面影を残すそのノスタルジックな姿に魅せられた、団地マニアが近年増加しています。

イギリスでは、地方自治体が運営する公共住宅を「カウンシル・エステート」といいます。そのデザインは、ヨーロッパらしいレンガ造りの低層団地から、テラスハウス、鉄筋コンクリートの高層団地まで様々。

そんな中でも、ロンドン中心部の金融街「シティ(City)」に隣接するマンモス団地「バービカン・エステート(Barbican Estate)」をご紹介します。

同地の特徴は何と言っても、ロンドンの景色の中でも異彩を放つ「ブルータリスト建築(またはブルータリズム、Brutalist/Brutalism architecture)」。

「粗暴な、荒々しい」などの意味を持つ「ブルータル(Brutal)」が語源のブルータリスト建築は、20世紀初頭のモダニスト建築からの流れで派生し、1950~1960年代に流行した建築様式です。主に学校や市役所、文化施設など公共の建物に数多く取り入れられており、打放しコンクリートを多用し、荒々しさと重厚な威圧感を感じさせるデザインが特徴です。

ロンドンの行政区のひとつ「シティ・オブ・ロンドン」によって、シティで働く人々の住宅難を解消するための賃貸住宅として、1965年から1976年にかけて、第二次世界大戦で爆撃された35エーカー(東京ドーム約3個分)の敷地に建設されました。

1969年に正式にオープンして以降、賃貸住宅として需要に応えてきましたが、1980年代のマーガレット・サッチャー政権時代に状況が一変します。

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