■石破氏が主張する「構造的な人手不足」にまつわる誤解

さらに深刻なのは、「構造的な人手不足」についての認識である。これについては典型的な反アベノミクス論者の誤謬といえるものである。人口減少で「生産年齢人口」(15歳以上65歳未満の人口総数)が減少しているのは確かである。石破氏はこの構造的な要因が人手不足を生み出しているというのである。

だが、この点を見るには他に重要な3つの指標をみる必要があるだろう。「労働力人口」(15歳以上で働く意思がある人たちの総数)と「就業者数」(実際に収入を得ることができる職についている人たち)、そして「完全失業者数」である。

例えば、生産年齢人口が減る中での、民主党政権と安倍政権の雇用状況の違いをみてみよう。民主党政権でも完全失業率(労働力人口に対する完全失業者数)は実は低下していた。だが他方で、就業者数はまったく増加していなかった。つまり景気が悪くて、実際に働こうと思っても職場が見つからずに働くのを断念した人たちが膨大に存在するのである(求職意欲喪失者という)。

だがこの状況は、安倍政権の時代にはっきりと変化する。安倍政権発足後は、職探しを断念していた人たちが景気の良さに戻ってくることで、労働力人口が増加する。さらに重要なのはこの労働力人口の伸びをはるかに上回る形で、就業者数が増加し、結果として失業率の低下やまた有効求人倍率の著しい伸びが実現している。

もし石破氏のような「構造的な人手不足」が現状の失業率の低下などの原因だとしたら、民主党政権時でも同様の傾向がみられたはずである。だが実際には人口減少に同じように直面していても、民主党政権では雇用環境の著しい悪化ゆえに失業率が低下!していたのである。

ちなみに石破氏の雇用観はしばしば民主党政権の時代の方が経済・雇用環境がよかったとする主張にかなり似ている。与党の代表(候補)が野党勢力の過去の経済政策を間違って高く評価してしまわないことを祈りたい。

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