ビットコインのネットワークの要であるプルーフ・オブ・ワーク(PoW)のアルゴリズムは、マイニング(採掘)という計算作業に支えられて稼動し続けることができる。精巧に暗号化されたシステムは、ビットコインだけでなく、PoWの分散型ネットワークで運営されるあらゆる仮想通貨の基礎となっている。
ただし、マイニングの作業は深刻な問題と背中合わせだ。コストを回収するだけの報酬を稼ぐためには膨大な作業量が必要で、そのために大量の電力を消費するのだ。実際、かなり高くつく。
仮想通貨の価格が急騰してマイニングで荒稼ぎしていた時期は、そうしたコストも大きな問題にはならなかった。しかし、現在ビットコインの価格は1年近く低迷しており、「マイニング危機」が迫っているとも言われている。
マイニングプール大手、F2プールのディスカス・フィッシュ共同創業者によると、推定で60万から80万台のマイニング用マシンが既に停止している。マイニングの難易度が高くなってもビットコインの価格は下がり続けており、採掘コストを差し引くと利益が出ないマイナーも少なくない。コストのなかでも電気代はかなりの部分を占める。
その電気代を、ゼロにできるかもしれない。短期的ではなく長期的な解決策ではあるが、マイナーにとって期待できる場所がある──宇宙だ。
膨大な量の電力を必要とすることは、マイナーの大きな経済的負担になっている。マイニングの難易度は基本的に上昇しているが(ここ数カ月は仮想通貨の価格が下落したため、下火になっている)、電気代は下がらない。それどころか電気代は全体として上昇しており、国際エネルギー機関(IEA)によると、その傾向は続きそうだ。
安い電力を求めて、山奥の水力発電所の近くにマイニングの設備を置く事業者もいる。カナダでは、ガス田から出る余剰の天然ガスを利用している。中国の事業者は、季節ごとに移動して最安値の電力を渡り歩く。気候をもとに、電気代の変動を予想できるからだ。つまり、電力事情が最適な場所を選んでマイニングの拠点にするという考え方は、すでに前例がある。
それなら宇宙空間を目指してもおかしくない。何しろ、太陽は無料のエネルギーの巨大な供給源だ。IEAによると、私たちは地球全体で1時間に約10万テラワットのエネルギーを消費している。太陽が放出するエネルギーは1時間に384.6ヨタ(10の24乗)ワット。現在の消費ペースなら、地球38億個分をまかなうことができる。
太陽光エネルギーは地上でも利用できるが、天気の気まぐれに左右される。しかし、宇宙に行けば、太陽のエネルギーを1日24時間、フル稼働で利用できる。
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