世界中のメディアがベネズエラの政治危機を伝えている。野党指導者フアン・グアイドは、マドゥロ政権の法的な正当性を否定し、両陣営の争いが続いている。

ベネズエラの経済的、政治的、社会的危機に関する報道だけを見ていると、この国にも人々の暮らしや活動があることを忘れてしまいがちだ。これだけの混乱にもかかわらず、大半の国民は政治紛争とは無縁だ。

政府が国民の生活向上のための明確な手を打っていないと言うつもりはないが、大規模な人の移動が始まっていることを否定するつもりもない。私の知人の多くも他の国に移住した。生まれてこの方、これほど多くの人々が路上生活を送ったりしているのを見たこともない。医療サービスはなかなか受けられないうえ高額で、公衆衛生状況は日に日に悪くなっている。だが残念ながら、ビットコインはこうした問題を解決する手立てにはなりそうにない。

たしかにベネズエラ人の中には、仮想通貨を積極的に使って現在の危機を切り抜けようとしている人たちがいる。そしてベネズエラではビットコインが力を得ているとの記事が多く書かれた。私自身、一部のベネズエラ人にとってビットコインが命綱になっているという記事を書いたことがある。

だがベネズエラにおけるビットコイン人気をことさら大げさに言うのはやめようではないか。またこの国の危機を、仮想通貨業界の関係者が宣伝材料に使うのもやめてもらいたい。

例えばビットコインのエアドロップなどを利用してベネズエラに住む人々に仮想通貨で金を送ろうと考える人もいる。こうした寄付プロジェクトは一見、害がないように聞こえるかも知れないし、善意から始まったものもあるだろう。問題は、仮想通貨を受け取ることのできるベネズエラ人は一般的に、最も困窮して救いの手を求めている人々とは違うということだ。大部分のベネズエラ人は仮想通貨のことなど聞いたことがないのだから。

■ベネズエラにおける仮想通貨のエコシステムはいかに変わったか

ベネズエラの危機は深刻の度を増している。政治危機が新たな段階にさしかかる一方で、経済危機もさらに悪化し続けている。法定通貨はゼロ5つ分切り下げられ、「ボリバル・ソブラノ(VES)」に改称された。それでもこの記事を書いている時点で、1杯のコーヒーの価格(0.5米ドル相当)は1800VESを上回っている。

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