■「……あるかもな？」っていうロマン

──増子さんも含めて、好きにやってきた大人たちがなんとかなってるのは嬉しいですよ。

増子　そうだね、それは幸せなことだと思うよ。俺らみたいなもんは、ちゃんと嫌なこと我慢して働いてる人たちの遊興費で食わせてもらってるわけで、そこは絶対に立場が低いわけだから。その自覚は持たないといけないよね。自分はロックスターみたいな、お客さんよりちょっと上みたいな感覚は違うんだよ、食わせてもらってるんだから。そこはホントに一歩引いて、日陰者とまではいわないけど、その自覚がなきゃ絶対にダメだと思う。そこ勘違いしてるヤツが多いよな。いずれしっぺ返しくるわ。

──それもバンドを休んでる期間があったからこそわかることですよね。

増子　そうだね、ちゃんと働いてる人は立派だよ。たいへんだもん。

──ちゃんとした仕事にかぎらずテキ屋とかもたいへんだし。

増子　あれはまた別のジャンルでたいへんだね。本来、売れるもんじゃないから。売れるもんじゃないのに売上あげなきゃいけないんだから。どうすりゃいいのっていうね。

──それを経験してきた人からしたら、YouTuberがくじ引きに当たりがあるかどうか確かめるなんていうのは「バカか！」のひと言なわけですよね。

増子　いい加減にしろって話なんだけど。「このライター偽物じゃない？」なんて、こんなとこで本物が売ってるわけねえだろ！　「当たりが入ってないじゃん」なんて、当たりなんか入れてたら商売になるかって話で。そういうショーなんだよ。それをわかってて、もしかしたらっていうさ。昔のレーベルのエンジニアですごいスケベなヤツがいたの。もともと山中湖のスタジオで働いてたヤツで、それがすごい異常性欲者で、スタジオにもエログラビア貼りまくって、社長に何回も怒られて剥がされてるんだけど、そいつがミックスやったりしてスタジオにこもってると週刊誌とか読むじゃん。そうするとＱ２みたいなヤツの体験記が出てて、それ読んで最初は「そんなわけあるかよ！」っつってまた仕事して、またそれ読んで、「……いやいや、ないわ」って何回か繰り返してたら、最後は「……あるな？」って、それでいっつも何十万も払っちゃってるんだよ。

──すっかり騙されて。

増子　そう。だからそれよ。そこに乗っかっていく気持ちよ。最初は「こんなのあるわけないわ！」て思ってるんだけど、何回も見てるうちに、「……あるな？」って、それと一緒。ハズレばっかりで、こんなの当たりが入ってるわけないだろって思うんだけど、やってるうちに、「……あるかもな？」っていうロマンだよ。そこはいじっちゃいけないところっていうか、それやっちゃったらつまんないじゃん。もしかしたらっていうことで、可能性ゼロじゃない、ひょっとしたらっていう部分で生きていけるところはあるんだから。アイドルだってそうだよ。アイドルのヲタの人だって、ひょっとしたらひょっとするんじゃねえかと思ってるんだから。

──ガチ恋の人にしてみたら。

増子　そう！

──俺もイケるんじゃないかっていう。

増子　そう、それもゼロじゃないから。「ゼロですよ」って言われちゃったらそこにファンタジーなくなっちゃうもん。そんなこと言ったら『スター・ウォーズ』とか観れないよ。「映画じゃん！」ってことでしょ。そういうことになっちゃう。まあ、なんにも載らないんだったらもっとおもしろい話いっぱいあるんだけど、それは今度飲みにでも行って。

──ぜひ聞かせて下さい！

（了）

取材・文 / 吉田豪

増子直純（ますこ・なおずみ）●1966年、北海道出身。1984年に札幌にて、自身がボーカルを務めるバンド怒髪天を結成。1991年にメジャーデビュー。1996～1999年の活動休止期間を経て、2004年に再びメジャーでのリリースを開始し、2014年には日本武道館ワンマン公演で大成功をおさめた。個人としても幅広い活動を行なっていて、関ジャニ∞「モンじゃい・ビート」やももいろクローバーＺ「ももいろ太鼓どどんが節」など、提供した楽曲も多数。桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」やKIRINの「のどごし〈生〉」などのCMにも出演/歌唱していて、お茶の間での認知度も高い。現在、LIVE DVD＆Blu-ray「怒髪天presents“響都ノ宴”10週年記念『夢十夜』」が好評発売中。

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怒髪天の恒例企画「響都ノ宴」を初映像化。バンド結成の1984年から活動休止する1996年までのアーリー怒髪天イヤーズ。活動再開の1999年から2004年までの現在の怒髪天の礎となったフライハイトイヤーズ。2004〜2006年のちょっと濃い味アーリーテイチクイヤーズ。以上の３つの時期のライブ映像を収録！　特典はドラムス坂詰克彦のソロセカンドシングルCD「待っているのよ」！

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