「火の国」の別名をもつ、南コーカサスの国アゼルバイヤン。カスピ海に面した首都バクーの近郊には、火の国の神秘性を実感できる場所があります。

それが、バクー中心部から20キロほどの郊外に位置する、アテシュギャーフ拝火教寺院です。

一般には「ゾロアスター教」として知られる拝火教は、紀元前にイランのゾロアスターを開祖として始まった世界最古の宗教のひとつ。ササン朝ペルシア時代に隆盛を誇り、現在のイランから中央アジア、インド、中国にも伝わり、広範囲に信仰を集めていましたが、7~8世紀ごろにイスラム化が進んだことで、衰退していきました。

アゼルバイジャンが7世紀にアラブの支配下に入った当時、住民はまだゾロアスター教徒が多数派でした。しかし、11~12世紀のセルジューク朝の時代にイスラム化が進み、イスラム教国家としての現在のアゼルバイジャンの基礎が育まれていきます。

イスラム教の流入によりこの地を追われたゾロアスター教徒は、インド北西部へと逃れ、ゾロアスター教はインドのヒンドゥー教の影響されながらも受け継がれます。インドに移住したゾロアスター教徒は「パールシー」と呼ばれ、彼らがアゼルバイジャンにゾロアスター教を復活させることになりました。

「拝火教」といわれることからもわかる通り、ゾロアスター教の特徴は、火を神聖視して儀式などに用いること。

ゾロアスター教が生まれた地域には、天然ガスが豊富に埋蔵されており、地表に噴き出した天然ガスが空気や砂などと擦れることによって火が付くと、同じ場所でずっと火が燃え続けることになります。こうした自然環境こそが、火に神性を見い出すゾロアスター教の基盤になったのです。

アテシュギャーフ拝火教寺院周辺も、古くからの油田地帯。地面から炎が上がり続ける光景を見たゾロアスター教徒は、この地を聖地として寺院を建てたといわれています。

「アテシュギャーフ」は、アゼルバイジャン語で「炎の家」の意味。

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