洋館と撞球室とはうって変わって、純和風の趣を漂わせているのが和館。現在ではこぢんまりとした建物ですが、完成当時は建坪550坪にもおよび、隣の洋館をしのぐ規模を誇っていました。

洋館がゲストハウスであったのに対し、和館は岩崎家の日常生活の場。ひのきや杉の大木がふんだんに使われており、船底天井の廊下には、長さ16メートルの一枚板が使われています。

洋館に比べると落ち着いた雰囲気ではありますが、和館も上質な素材を使用した贅沢な建物。非日常感に満ちた華やかな洋館も素敵ですが、深い味わいのある和館に入ると、一気に気持ちが落ち着きます。

「三菱」という名が表している通り、岩崎家の家紋は重ね三階菱。組子や釘隠しなど、和館の建具には、いたるところに菱紋のモチーフが隠れています。細部にいたる意匠への心配りには、日本建築の美意識の表れ。洋館とはまた違った、繊細な趣が感じられるはずです。

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