今回、無所属の会・江田憲司氏が指摘した大阪地検特捜部長・山本真千子氏による捜査情報のリーク問題ですが、懸案となった「ダンプカー4,000台分のゴミを撤去したよう、財務省職員が森友学園側に口裏合わせを要請した」件以外にも、本来公開されてはならない捜査中の情報がメディアにリークされ、そのたびに国会質疑で野党側からの追及材料になるなどの「大阪地検と野党と一部メディアの共闘」の実情が明らかになりつつあります。
#森友 大阪地検の女性特捜部長のリークがどんどん出てくる。NHK「何千台分のトラックでゴミを撤去したと言ってほしい」と本省理財局の職員が森友学園に要請と。ネタ元はメールらしい。今のところ、特捜部は「やる気」みたいだが、法務省と財務省の関係からすると、どこまで貫けるか!?頑張れ!
— 江田憲司(衆議院議員) (@edaoffice) 2018年4月4日
[引用] #森友 大阪地検の女性特捜部長のリークがどんどん出てくる。NHK「何千台分のトラックでゴミを撤去したと言ってほしい」と本省理財局の職員が森友学園に要請と。ネタ元はメールらしい。今のところ、特捜部は「やる気」みたいだが、法務省と財務省の関係からすると、どこまで貫けるか!?頑張れ!
江田憲司氏が森友問題で大阪地検からの捜査情報のリークを晒して大変な騒ぎに(山本一郎) - Y!ニュース https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20180405-00083602/
もちろん、江田憲司氏がこのような発言をしたのは「うっかり筆が滑って、情報源の特定名が分かる形で書いてしまった」というよりは、ある意味で「自民党に恩を売るため」ではないかという観測まで出てしまうあたりは江田氏一流らしい不徳と計算なのかもしれません。
この問題を受けて、俄然騒がしくなってくるのは森友学園を巡る報道と関係各省庁の動きです。法務省は当New's Vision編集部の取材に対し「検察当局において、捜査上の秘密の保持については格別の配慮をはかっている。捜査情報や捜査の方針を外部に漏らすことはありえない」(法務省刑事局)、「検察は捜査情報を外部に漏らすことはありません」(大阪地検・広報官)とのことで、公式にはリークの事実を認めません。
しかし、法務省関係者、捜査当局や関係先の証言はこれらの公式見解とは異なった内容の説明をしています。「森友問題に限らず、JR東海のリニア談合事件や、ペジーコンピューティング社の事案など、安倍政権に所縁の深い問題については、かねてから地検は東京も大阪も節目節目に積極的にメディアに情報を提供してきた」(関係筋)と説明するように、検察庁は手掛ける事件に国民の関心が向くよう、かねてからリークを繰り返してきた実情が浮かび上がります。それらは、いずれも安倍政権にとって望ましくない情報の流れを作り上げることを目的としており、明らかな対決姿勢が見て取れる不穏なものです。
その背景には、後述しますが法務省、検察庁人事に対する安倍政権の強い介入があり、菅義偉官房長官以下官邸からの覚えのめでたい黒川弘務氏が法務事務次官に昇格した件で、検察庁内が官邸との対決姿勢を強めているという事情があります。「FACTA」18年4月号に掲載された一本の短い記事について、森友問題の事情に詳しいジャーナリストは「ほとんど地検で活躍するすべての検事が首肯する状況説明なのではないか」とさえ指摘します。
安倍「人事壟断」に逆襲する検察
https://facta.co.jp/article/201804043.html
今年に入ってからの森友問題の経緯を振り返ってみると、18年3月2日朝日新聞が放ったスクープである「森友文書書き換えの疑い」はこの森友学園問題の雰囲気を一変させ、安倍政権に対する大きな疑念・疑惑を追うメディアの攻勢が一気に強まることになりました。報じられた当初は、衝撃的な内容も相まって朝日新聞に対しその書き換え疑惑の元となった文書など「報道の根拠」を求める声が高まったわけですが、最終的には財務省側が森友関連の公文書書き換えの事実を認め、当時の理財局長であった佐川宣寿さんの国会証人喚問にまで発展していったことになります。
しかしながら、この公文書書き換えの書類をなぜ朝日新聞が持ちえたのかという件については、謎に包まれていました。疑問に対して朝日新聞やメディア関係者は「情報元を守る報道機関の義務、責任」という説明で切り抜けてきたものが、今回の江田憲司氏による大阪地検特捜部長・山本真千子氏によるマスコミへのリークによるものだとすると、話が一気に逆噴射します。つまり、大阪地検は刑法や国家公務員法を正面から違反して朝日新聞に捜査情報をリークし、国民の怒りの目を向けさせる世論工作を大阪地検が仕掛けた、ということに他ならなくなります。
当然、地検から情報提供されてスクープを打った朝日新聞が、その内容に絶対の自信とともに元の文書も根拠も開示しないと突っ張るのも頷(うなず)けます。なぜから、情報源の秘匿以上に、検察からの捜査情報の提供は刑法134条、国家公務員法100条1項に違反する、明確な犯罪であるとすでに政府見解が答弁として出ているからです。
第171回国会(常会) 質問主意書
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/171/syuh/s171092.htm
参議院議員松野信夫君提出捜査情報の漏洩に関する質問に対する答弁書
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/171/touh/t171092.htm
[引用]
三について
刑法(明治四十年法律第四十五号)第百三十四条及び国家公務員法第百条第一項の違反の有無は、事案に即して個別具体的に判断すべきものである。 なお、刑法第百三十四条及び国家公務員法第百条第一項違反の行為は、いずれも、法律に違反する行為であり、許されない行為である。
そもそも、朝日新聞が入手した決裁文書の原本は大阪地検特捜部が近畿財務局から任意提出を受けていたものでした。財務省の中でも事件化するまでほとんど注目されておらず書面の詳細をおろか事情を知る人物が財務省本省にも近畿財務局にも少なかったばかりか、その原本が国会議員の手に渡っていた文書とどう異なるのか、これが書き換え(改竄)に当たるものと判断つけられる人物は当時の理財局長であった佐川宣寿さんと文書管理をしていた近畿財務局の関係職員3名程度しかおらず、この人物らも繰り返し取り調べを大阪地検から受ける立場でありリークどころか資料の持ち出しを行える状況にありませんでした。
捜査関係者も近畿財務局筋も認めている話ですが、当時の理財局長であった佐川氏は「多忙もあって、たかだか8億円程度の値引きをしたような土地取引の詳細を知るほど細かく管理してはいなかった」(近畿財務局筋)とされています。森友問題はその取引の大きさから見ても国会で日数をかけて膨大な予算を消費するほどの大事件ではないのと同様、財務省にとっても非常に小さいローカルな国有地処分の問題に過ぎなかったわけです。
江田憲司氏や捜査関係者の言う通り「一連の朝日新聞のスクープは大阪地検特捜部長の山本真千子氏から伝えられた捜査関連情報であった」可能性が極めて高くなると、無理筋とも言える森友問題も一気に「官邸VS検察庁」の人事を巡る抗争が焦点になってきます。
これに加えて、今回の財務省が森友学園に対しダンプカー4,000台にも及ぶゴミの撤去について、国会での野党からの質問への答弁と矛盾しないよう口裏合わせを依頼した話も、NHKが第一報を伝え大変なスクープとなりました。佐川氏が国会証人喚問で答弁した内容と矛盾があれば、偽証の罪に問われる可能性さえもあるからです。しかしながら、これも現在長期拘留中の森友学園・前理事長の籠池泰典氏と、妻の諄子氏のネタをNHKが独自のルートで単独入手できる筋の情報ではなく、江田氏が暴露するように大阪地検特捜部が捜査において有利な世論を導けるようにリークをかけたとされるのも俄然信憑性が持たれます。
もちろん、森友学園の公文書の書き換えは民主主義の根幹にかかわることですし、野党からの国会質問に対する答弁の整合性を担保するため事実でないことを関係者に証言を求めるというのは大変な問題です。また、組織の論理として、法務省・検察庁が順当な人事を行いたくとも官邸・菅義偉官房長官以下の論功行賞でかき乱されて、検察当局の現場が「怒り心頭で戦闘モードになっている捜査関係者一色になっている」(関係筋)の心情も分かります。ただ、これは現在刑事事件として文字通り捜査中の事案であり、捜査機関が捜査上知り得た情報を起訴するかどうかの判断をする前にマスコミに情報提供を行い世論を煽動するような行為は先にも述べたように刑法134条や国家公務員法100条1項に抵触する問題のある行為を大阪地検が主体的に行った、と言われても仕方のないところであります。
このリークの背景については、安倍晋三総理率いる官邸と、法務省との間での人事を巡る駆け引きが繰り広げられ大きな対立状況にあったとされるのは前述の通りと見られます。先のペジーコンピューティング社や、安倍政権が進めるリニア事業でJR東海以下談合問題が東京地検で着手された事例を見るまでもなく、官邸と法務省、検察庁の間で強い緊張関係にありました。いわば、官邸主導の人事の強行であって、法務省は従来通りの人事として将来を嘱望されていた刑事局長の林真琴氏を法務事務次官へ昇格させる人事案を提示していました。しかしながら、これが16年夏以降3回官邸サイドに拒否されて、黒川氏が事務次官が留任しました。当の林氏は今年1月に名古屋高検検事長へ転出することとなったわけです。
その黒川氏が安倍政権官邸の覚えがめでたい理由も、16年1月に週刊文春が報じた甘利明衆院議員の斡旋利得処罰法の違反事件をこの黒川氏が官邸の意を受けて不起訴処分に導き、最終的に揉み消す形になった論功行賞に他なりません。
「甘利大臣側に口利きの見返りで1200万円」21日発売の週刊文春が報じる - 産経ニュース
https://www.sankei.com/affairs/news/160120/afr1601200031-n1.html
社説:甘利氏不起訴 処罰できぬ法の限界だ - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20160604/ddm/005/070/023000c
甘利氏は「絵に描いたようなあっせん利得」をどう説明するのか (郷原信郎) - オピニオンサイトiRONNA
https://ironna.jp/article/2752
それゆえに、本来はどうしても森友学園に売却した土地を処分したかった国土交通省大阪航空局と、その譲渡を承認し介在した日本維新の会との話を財務省近畿財務局が「善処」しただけの事案が掘り起こされ、籠池夫妻の強烈なキャラとともに世間の強い関心を集めた結果が、大阪地検特捜部によるマスコミへのリーク、安倍晋三総理・昭恵夫人の関与疑惑という無理筋とも言える一連の大騒動に発展したとも言えます。法務省側も話の筋道を理解している関係者やOBは検察官の証拠改竄に繋がった村木厚子冤罪事件と同様の問題に発展することを強く懸念する一方、官邸主導人事によって霞が関の予定調和が崩され、もはや信頼関係の欠片も残されていないように見えることについては憂慮される事態だと説明しています。
文字通りこの問題のパンドラの箱を開けたのは江田憲司氏ですが、冒頭で述べた通り彼もまた、自民党に恩を売るために計算ずくで暴露したのではないかという観測を出されてしまうのも、この一連の問題が国民のほうを向いていない、官邸・溜池山王と、霞が関のあいだの人事を巡る権力闘争の果てにあるものでしかないからです。公文書の改竄は許されるべきではない、法を犯して捜査当局が捜査途上の資料をマスコミに流して世論を捜査してはいけないという民主主義や法治国家として当然守られるべきことが疎かになっているだけではありません。
一連の政治に対する不快感や、自民党のポスト安倍を狙う動き、あるいは追及にまつわる維新の会を含む各野党、朝日新聞などマスコミ各社、財務省、国土交通省、法務省・検察庁… どのプレイヤーもキーマンも、すべてが国民からの不信の目に晒され、いわば勝者なき政争、着地点の定まらない抗争で、国民のための政策を議論するための時間を無駄にし、激変する国際環境に対する日本の考え方を固めたり地位を向上させる動きを停滞させていることは、よく考える必要があります。
各省庁にも、状況に流されず冷静に判断している人たちも少なくないと思いますし、メディアも問題の核心について気づいてきていることでしょう。政権を支持する側は野党やメディアが難癖を付けていると思い、安倍政権不支持の人たちは権力の腐敗を強く嘆く状況のまま膠着状態が続くことが、果たして本当にこの国の未来にとって良いのか、いま一度考えるべきときがきているように感じます。
すぐに安倍政権倒閣という話にはならないでしょうが、まあごちゃごちゃやって、憲法改正論議への道筋をつけたということで安倍総裁三選を見送って花道、そして自民党ではポスト安倍を睨んだ動きが加速、というところで終わってしまう話なのでしょうか。そうなると、次の総裁選までの半年ほどが安倍政権消化試合となって、政治も停滞することになります。
引き続き、生暖かい眼差しで政局を見守っていきたいと存じます。