■日本独自のパンクファッションはひょうたん?

──何も知らず無邪気にいじったら。

増子 何も知らずに。でも、東京もおもしろいよね。すげえのいるなと思ったもん。昨日、新宿で山手線に乗ってきた爺さんがいて、ちょっとホームレスっぽい感じなんだけど、耳がすげえとんがってるんだよね。なんだと思って見たら、聞こえが悪くなってるんじゃない? 段ボールで補強してるんだよ。

──え!
 
増子 耳がデカくてとんがってて、ガムテープで留めてるんだよ。すげえな、補聴器かと思ったけど感心しちゃった。人間の工夫ってこういうもんだろうなと思って。だって完全に宇宙人だもん、もうちょっと丸くせいよっていうさ。それでふつうに歩いてたからな。あと、どう考えてもヅラだろっていう、何年も被ってて色も変わっちゃってるし、ただゴム乗っけてるみたいな爺さんとか最近は見ないよね。

──指を差したくなるレベルで違和感のあるカツラの人は減りましたね。

増子 誰も注意しないのは一人暮らしだからかもしれないけど、いろいろ自分の姿が写る機会ってあるじゃん、鏡だけじゃなくて。それをくぐり抜けてここに来てるのかなと思うとドラマ感をじるよね。誰もツッコめないもん、底知れないよね。

──そういうの見てると負けてられないみたいな思いが出てくるんですか?

増子 たまんねえな、人間っていいなと思うよね。おもしろい人に会うと楽しいよ。

──ただ、上京してそういう人を見て「ヤバいな」とか言ってる頃の増子さんだって、腰にひょうたんとかついてるわけですよね(笑)。

増子 それで縄を巻いてたもんね。これからは日本のファッションだと思って。

──ふんどしもして(笑)。

増子 そう、だいぶ勘違いしてたね。いまでもその格好はカッコいいと思うけど、俺的には。

──日本独自のパンクとは何かとか追求していくと、そうなって。

増子 そうそうそう、追求していくうちにだんだん違うチャンネルひねっちゃってたね。これは酒を入れとくのに便利かなと思って、ひょうたんっていいなと思ってるうちに。いまモヒカンで歩いててもバンドとか何かやってる人だなと思われるだけじゃん。俺が高校のときなんかインディアンかと思われてたからね。あと、弁髪が一時期仲間内で流行ったときの笑われっぷりね。すれ違いざまの女子高生が吹き出すっていうさ、怖いとかじゃなくて。わかんないだろうなとは思ってたんだけど。

──モヒカンの威圧感とは全然違う。

増子 ちょっと前がないだけでだいぶ違うんだよ、小学生に「ラーメンマンだ!」って言われて。

──言われちゃうでしょうね(笑)。

増子 俺の友達ですごいラーメン好きなヤツが弁髪やってたから、「たしかにラーメンマンだけど」って言ってたよ。

──ラーメン好きが高じてついに弁髪に(笑)。

増子 したんじゃないかと思われて、違うっつうの。変に「自分、変わってるんですよ」みたいな昔のサブカル女子みたいなのが増えてるよね。自分は人とは違う、みたいな。俺もそうだし周りもそうだったけど、自分がちょっとタガが外れてるんだなっていうのを身にしみて知ったとき、ショックだったもんな。

──自覚なくおかしなことをやってたわけですよね。

増子 ぜんぜん自覚なかったんだよ、ふつうだと思ってたから。ただ、ちょっと怒りやすいかなとか、ちょっとヤンチャかなー、ぐらいの。

──全然ちょっとじゃないですよ(笑)。

増子 それが「ちょっと病院に行ったほうがいいんじゃない?」なんて真顔で言われた日には、すごいショックだったよね。

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