■インフラ投資を減少させてきた緊縮主義、石破氏「防災省」の裏に増税も?

中央大学教授の浅田統一郎氏は、90年代真ん中からの名目公的資本形成(政府のインフラへの投資など)が急減してしまい、2010年代に入る直前にはほぼ半減してしまったことを指摘している(『危機の中で<ケインズ>から学ぶ』ケインズ学会+平井俊顕監修、作品社)。

特に21世紀に入り、森政権から小泉政権にかけての減少は顕著である。麻生政権でリーマンショック対応で増加にやや転じたものの、また民主党政権で減少に転じた。「コンクリートから人へ」の政策の転換であるが、ただしこの傾向はいまも書いたように90年代から一貫して続いている。これが増加するのは安倍政権以降であるが、それほど目立つものではない。

要するに財政政策のこの緊縮スタンスは、まさに日本の長期停滞と歩みを同じくしている。他方で金融政策も安倍政権以前までは緊縮スタンスであり、この金融政策の緊縮スタンスと財政政策の緊縮スタンスの両者が、日本の失われた20年をもたらしたといえる。ただし現状では、金融政策は緩和スタンスであり、これが日本経済の雇用の改善ととりあえずの長期停滞からの離脱を可能にした。その意味では金融政策は長期停滞脱出の必要条件であり、さらに再び長期停滞に戻らないためには財政政策の緊縮スタンスを捨て去る必要がある。

だが、その見通しは現状では立っていない。立っていないどころか、今回のような自然災害の激増を背景にしても、財務省とそれによりそう政治家たちは、人命を損なうことになる財政の緊縮スタンスを捨て去ることはしない。

財政の緊縮主義を採用する石破茂氏は、最近、「防災省」を提起した。だが評論家の石平氏らが指摘するように、災害の「政治利用」の匂いがする。また石破氏のような緊縮主義者が防災を唱えるときは、それは増税での資金調達と表裏一体かもしれない。

防災のためには増税ではなく、長期の国債(復興国債など)を発行してお金を集めるのが経済学のすすめる常套手段である。その方が経済的負担を将来にまたがって分散することができて望ましいからだ。また長期国債を新たに発行すれば、それを日本銀行の金融緩和政策によって無理なく吸収でき、むしろ経済の安定化に大きく寄与するだろう。したがって「財政危機」などの心配もない。しかしかって東日本大震災のときに、財務省と緊縮主義の政治家たちは、「復興税」を推進した。今回はどうなるのか注視するべきだろう。

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