プロインタビュアーの吉田豪が、いまもっとも旬で、もっとも注目する人物に直撃するロングインタビュー企画。今回のゲストは、低予算ながら大ヒット上映中の映画『カメラを止めるな!』で旋風を巻き起こしている上田慎一郎監督。実は上田監督と“因縁”があった吉田豪が、上田監督の人生を全3回にわたってじっくりと掘り下げます。

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──ハチ公前で露天商をしていたのはそのぐらいの時期ですか?

上田 そのあとじゃないですかね。そこでいろんなポストカードを売ったりDVDを売ったり500~600人にあだ名をつけたりしてたんですけど。そのなかにストーリーカードっていうのがあって、弟が描いた絵の上に、その絵に適したショートストーリーみたいなのを書いてたんですね。それを絵葉書か何かのコンクールで出版社に送ったら、その出版社の人から連絡が来て。

──『ドーナツの穴の向こう側』という小説を出すことになって。そのときのテンションの上がり方もすごかったですよね、「ついに俺も夢が叶った!」ぐらいの感じで。ただ、そこはある意味有名な出版社で、お金を払えば誰でも本を出せるところだったという。

上田 そうなんですよ。僕はそのときもよかれと思って担当の方とのやり取りを全部書いてて。

──ブログですべてをリアルタイムで報告してたんですよね。

上田 そしたら炎上しまして。

──無邪気にその出版社のノウハウを全部バラしちゃったから(笑)。

上田 そうですね、イラスト入りで書いてました(笑)。

──担当者の似顔絵まで描いて(笑)。

上田 そうそうそう。だから一時、「ブログ閉じてください」って言われましたけど、「嫌だ!」って言いましたね。

──あちらの会社的には迷惑でしょうからね。要は小説を出さないかって誘われたけれど、そのためには165万円を払わなきゃいけないって話になって。

上田 しかもネットワークビジネスで作った借金を返した直後だったんですよね。返した直後にまた借金が増えたっていう逆境さえも焚き火になってたんだと思います。

──このときの自問自答のやり取りを書いたブログも印象的で。

上田 ああ、それちょっと覚えてます。ベンチに座ってる俺と、もうひとりの俺がいて、自分と対話してるっていうのを書いてて。

──そうです。「何をそんなに決めかねてるわけ?」「…いや、何をって。だって恐いじゃん」「うーわ、それって超普通の悩み&不安じゃん。普通に恐いだけじゃん。ビビってるだけじゃん。壮絶にださいね。…君は今ワクワクしてるよね?」「してるね」「ワクワクは嘘をつかない」みたいな会話を繰り広げて(笑)。その結果、ワクテカと呼ばれるようになって。

上田 はい。いやぁ……すごいですよね(苦笑)。

──すごいですよ。出版のときも、誰かに相談したら「そこはやめたほうがいい」って言われてたはずなんですよね。ところが自信たっぷりに、「いろいろ調べましたけど、僕はここでいきます。増刷もかかりました、イェーイ!」みたいなテンションだったのが、急激にどこかの段階で激落ちするんですよ。

上田 ハハハハハハ! そうですね(笑)。

──初版分すら売れなかったから。基本、間違った選択しかしない人なんですよね。

上田 そうですね。間違った選択をしたらふつうはストッパーがかかるじゃないですか、誰かに相談したりして。それをしなかったってことは、失敗したかったのかなって思うときがあるんですよ。でも、それが最後ですね。出版で借金を背負ったことで自主映画団体に入って。

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