何度鼻をへし折られても変わらなかった理由

──ようやく映画の道に進む決意をさせるだけの大きな失敗だったわけですね。そして、「家で米を研いでる時に、ふと口から出てしまった。あぁ…映画が創りてぇなぁ」という流れになって。

上田 ちょっと盛ってるかもしれないですけどね。そういうふうにちょっといい感じに書いてる時点で完全にヘコんではない気がします。

──借金返済で人間モルモット的なことをやったりとか、いつでもネタにしようとしてる節はありますもんね。

上田 人間モルモット経験も全部書いてましたからね。でも、難しいところなんですよ。最近、ホームレスからの大逆転みたいな話をしたもんやから、それでけっこう若者に響いてるから20代向けの自己啓発本を書いてくださいとかオファーがあって。講演とかセミナーでも失敗することが大事とか言うんですけど。

──「夢さえあればなんとかなる」みたいな無根拠なことを言いそうですもんね(笑)。

上田 「20代前半は失敗を集める気持ちのほうがいい」とは言うんですけど、ただ当時の僕って失敗を集めるほうがいいっていう気持ちでは失敗してないと思うんですよ、ガチで失敗してるじゃないですか。

──毎回、本気で成功しようとして。

上田 それで失敗してるから、失敗しようとして失敗するのとはまた違うのかもしれないし。だから、そこだけ鵜呑みにされても同じようなことにはならないだろうなとは思うんですよね。

──ただ、自己啓発本は相当読んできた人だから、いい本が書けるんじゃないですか?

上田 ハハハハハハ! 自己啓発本はちょっとなと思いますね。いま書く時間がないし、まだ曖昧な返事しかしてないです。自伝も書いてみたいんですけど。いまの30代の自分が20代のことを残しておくのはありかなと思って。そんな痛さも残しておいたほうがいいんかなって思うときもあるんです。俺も20代前半の人に会ったときに、イケイケの子のほうが何かやりそうやなって思うときありますね。

──もし書くなら、いま話したようなダメな部分をたっぷりと。

上田 そうですね。ただ、自己啓発本は、いまの俺もたぶんダメなとこいっぱいあるし、それをいま書くのもちょっと偉そうな気がして。

──20代であきらかに遠回りした人なわけじゃないですか。

上田 かなり遠回りしましたねえ……。

──遠回りしながらも、映画を作り出してからは初期作品からちゃんと評判がよかったわけで。

上田 中学校、高校の頃に自主映画を作って、ちっちゃい世界のなかですけど評判になって。だから、10代のうちに成功体験が積み重なりまくってたんですよ。それで「俺は天才だ!」ってなってたのがデカいと思いますね。

──だから東京に出て来て何度鼻をへし折られても変わらなかった。

上田 そうですね。それは本とかの影響が大きいかもしれないです、壁は越えるためにあなたにやって来る、みたいな。そういう言葉を浴びまくってたので、失敗したときも「これは俺が成長するためにある」って思って、ぜんぜんへこたれなかったんですよね。

──正直、あんなに何もない時期によくブログ続けてたなと思うんですよ。借金返済のため毎日コンビニでバイトしてるだけのブログとか、何が楽しいんだっていうようなことをずっと書いてたじゃないですか。あそこで折れないのがすごいですよ、発表すること何もないのに(笑)。

上田 それは単純に書くことが好きだったっていうのもあると思いますね。

──そして、そういう時期に死ぬほど映画を観たのがよかったんでしょうね。

上田 そうですね。思春期の頃はゲーム、音楽、漫画、映画を浴びるように観て育ってたので。

──過去のブログは、これからいろんな人からツッコミが入ると思うんですよ。「若松孝二 エロスの巨匠」「この人が誰だかいまだにわからない」って書いてるメモとか、全方向で隙だらけだから(笑)。

上田 ハハハハハハ! 相当ピュアでしたね。

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