2024年7月3日、20年ぶりに3種類の日本銀行券が発行されました。新しい一万円券(一万円札)に描かれているのは、「近代日本経済の父」と称される実業家、渋沢栄一の肖像画です。

渋沢栄一は1840年に武蔵国榛沢郡血洗島村(現在の埼玉県深谷市血洗島)の農家に生まれました。青年期に欧州で近代的な社会制度を知り、民間人として経済による近代的な国づくりを目指して、銀行を拠点に生涯に約500もの企業の設立に関わったといわれています。

栄一翁にまつわるスポットは出身地の深谷市に多くありますが、深谷市以外にも点在しています。この記事では、秩父市と秩父郡長瀞町(ながとろまち)の見どころを紹介します。

埼玉県秩父市

秩父市は埼玉県を横断する荒川の上流に位置する市です。隣接する秩父郡4町(横瀬町・皆野町・長瀞町・小鹿野町)とあわせて、「秩父地方」と呼ばれています。

秩父市と横瀬町にまたがる独立峰「武甲山(ぶこうさん)」は秩父のシンボルともいえる山です。武甲山ではセメントの主原料となる石灰石がよく採れたため、かつて栄一翁の資金援助を受けた秩父鉄道が武甲山南麓まで延伸し、秩父セメント(現・太平洋セメント)が設立されました。武甲山で採掘された石灰石が日本の高度経済成長期を支えたといっても過言ではないでしょう。

そんな武甲山の名を冠した造り酒屋が、秩父市にあります。

武甲酒造(ぶこうしゅぞう)

武甲酒造は、秩父の名峰武甲山を酒銘とした武甲正宗の醸造元です。馥郁たる香りと深い味わいを備えた武甲正宗の歴史は、江戸中期・宝暦3年の創業までさかのぼるとか。武甲酒造店舗は国指定の登録有形文化財で、今日の秩父谷に残る最も古い店構えの面影を残しています。

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